ゼロ点振動(2008/11/23)

  物質と温度の関係を見ると、例えば水分子の場合は1気圧の元で温度100℃以上で気体(水蒸気)、
 100℃以下0℃以上で液体(水)、0℃以下で固体(氷)に変化する「相転移」という現象を起こす。
 ではある物質の結晶をどんどん冷やしていくとどうなるだろうか。


 物質の結晶を形成する原子は静止しているわけではなく、結晶格子中のある位置を中心に振動して
 いるが、温度が下がると振動エネルギーは小さくなっていくだろう。

 古典力学では絶対零度0K(-273.16℃)では分子の振動エネルギーはゼロとなり、振動しなくなる。

 量子力学を用いて、結晶中の原子の振動を扱ってみよう。
 原子はある定点からの距離に比例した力、すなわち、フックの法則の力を受けているものとする。
 この原子の運動を一次元の調和振動子の運動として扱うと、位置エネルギーUは、

 U=k/2・x2 (ここでk:バネの力に対応する比例定数、x:定点からの距離)

 この原子のエネルギーが時間的に変化せず定常状態のとき、
 位置エネルギー項 をU 、原子の質量 m、プランク定数 h とすると、原子の運動エネルギーと位置
 エネルギーの総和は次のシュレディンガー方程式で与えられる。

 Eψ=-h2/(8π2m)・∇2ψ+Uψ
   =-h2/(8π2m)・∇2ψ+k/2・x2ψ
 (ここで∇2=∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2)

 ここでは、一次元として計算するのでx方向の微分のみ考え、波動関数として ψ0=e-ax2 を適用する。
 さらにα=h2/(8π2m)とすると一次元のシュレディンガー方程式は
 Eψ0=-α・(d2/dx20+k/2・x2ψ0 (1)

 ψ0の x による一階及び2階微分を求めると次のようになる。
 (d/dx)ψ0=-2ax・e-ax2=-2axψ0、
 (d2/dx20=(-2a+4a2x20

 上記の結果を式(1)に代入すると次の式 (2) を得る。
 Eψ0=-α・(-2a+4a2x20+k/2・x2ψ0  (2)

 ∴E・ψ0=2a・α・ψ0{-4a2・α+k/2 } x2ψ0  (3)
 
 この式で E が一定であり、これを恒常的に成り立たせるには x2 を含む項が0になればよいので

 -4a2・α+k/2 =0
 ∴a={ k/(8α) } 1/2=〔 k/{ h2/(π2m)}〕 1/2=π・(k・m)1/2/h  (4)

 式(4)を式(3)に代入すれば
 E=2a・α=(k/m)1/2・h/(4π) (5)

 古典力学では壁に固定されたバネにつながれた物体の振動数がν=(k/m)1/2/(2π)であるから

 E=hν/2 (6)

 量子力学を用いて得られる式(5)、及び式(6)には、温度は含まない。すなわち、原子の振動は温度
 によらず結合の強さ k と原子の質量mで決まる振動数と振動エネルギーを持つことになる。つまり、
 絶対零度でも原子は、式(6)のエネルギーで振動することになる。この振動をゼロ点振動と呼び、調和
 振動子における最低のエネルギー準位となる。
 ゼロ点振動の結果は、ハイゼンベルクの不確定性原理を調和振動子モデルで具現化したものと
 みることができる。
 ゼロ点振動は調和振動子の最低のエネルギーと述べたが、原子の振動エネルギーがどのように変化
 するのか調べてみよう。

 ψ0は、シュレディンガー方程式(1)を恒等的に満足するので、式(1)の両辺をxで微分しても両辺は等しく
 なるはずである。

 ψ1=(d/dx)ψ0、E=hν/2として、式(1)の両辺を微分すると

 (hν/2)・ψ1
 =-α・(d3/dx30+d/dx( k/2・x2ψ0)
 =-α・(d2/dx21+{ k・xψ0+k/2・x2・(-2axψ0) }

 さらに、xψ0=-1/(2a)・ψ1であるから、次の式が導かれる。
 { (hν/2)+k/(2a) } ψ1=-α・(d2/dx21+ k/2・x2・ψ1 (7)

 ここで、式(4)から、a={ k/(8α) } 1/2であり、α=h2/(8π2m)なので

 k/(2a)=h・(k/m) 1/2/(2π)=hν (8)

 従って、式(8)と式(7)から、次の式が導かれる。
 (3hν/2)・ψ1=-α・(d2/dx21+ k/2・x2・ψ1 (9)

 この式(9)を式(1)と比較すれば、式(9)は 振動エネルギー E=3hν/2 を持つ、波動関数ψ1の
 
シュレディンガー方程式となっていることが分かる。


 同様にして新たな波動関数とそのエネルギーを求めることができて、一次元の調和振動子の
 エネルギーは、E=hν/2 を最低のエネルギー準位として、次のように連続ではなく、とびとびの
 状態で変化することになる。

 E=( n+1/2 )・hν  (n=0,1,2,・・・・整数) (10)

 当HPの「温室効果ガスの赤外活性化」では、温室効果ガスの分子について、分子を構成する
 原子間結合の振動に対応する赤外線を分子が吸収することについて紹介している。
 つまり、分子を構成する原子同士もバネでつながれたような運動をしていると考えられている。
 さて、このような物体の運動、すなわち調和振動子のエネルギーは、式(10)から hνの単位で増加
 することになる。

 ここで、アインシュタインの光量子仮説をご存知の方は、光のエネルギーEの式を思い出すだろう。

 E=hν (h :プランク定数、ν:光の振動数)

 つまり、調和振動子はその振動数に等しい光のエネルギー(E=hν)を吸収するたびに、hνだけ高い
 エネルギーの状態に移ることができる。

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