サイエンスtips(from 2008/05/19)

 当HPの中で使用した用語について補足します。

1. 換算質量(2008/05/19)
2. 特殊相対性理論の速度合成則(2008/05/19)
3. デシベル(2008/07/10)
4. スケールハイト(2008/09/20)
5. 波動関数の規格化(2008/12/23)
6.ハイゼンベルクの不確定性原理(2009/01/18)
7.次元解析(2009/05/24)
8.平均自由行程(2012/08/19)
9.断熱圧縮(補足)(2017/08/5)


【1.換算質量(2008/05/19)】 :当HPでの関連ページ「温室効果ガスの赤外活性化」  原子A(質量Ma)と原子B(質量Mb)が結合した異核二原子分子の伸縮振動を考える。  原子Aと原子Bの結合はフックの法則に従い、2つの原子間結合の強さを k(N/m)とする。  原子Aと原子Bの距離を X とする。  2つの原子を結ぶ線上において不動の点Oを考えて点Oと原子Aの距離をXa、点Oと原子Bの距離をXbとすると  X=Xa+Xb (1) 点Oは不動であり、点Oから見て原子Aと原子Bの運動量(質量×速度)が釣り合っていると考えると    Ma・(dXa/dt)=Mb・(dXb/dt)  (2) 式(2)を積分すると、直ちに下記の式となる。  Ma・Xa=Mb・Xb (3) 式(1)と式(3)の連立方程式を解いて、XaとXbを X で表しておこう。 Xa=Mb・X/(Ma+Mb) (4) Xb=Ma・X/(Ma+Mb) (5)  次に、点Oから見た原子Aと原子Bに働くバネの力を運動方程式で表すと Ma・d2/dt2(Xa)=-k・Xa (6) Mb・d2/dt2(Xb)=-k・Xb (7) 式(6)×Mb-式(7)×Ma とすると Ma・Mb・d2/dt2(Xa-Xb)=-k・Mb・Xa+k・Ma・Xb (8)  まず式(8)の左辺を先に求めておいた式(4)と式(5)を用いて計算すると Ma・Mb・d2/dt2(Xa-Xb)  =Ma・Mb・d2/dt2(Mb・X/(Ma+Mb)-Ma・X/(Ma+Mb))  =-Ma・Mb(Ma-Mb)/(Ma+Mb) (d2X/dt2) 次に、式(4)と式(5)を用いて式(8)の右辺を計算すると  -k・Mb・Xa+k・Ma・Xb  =-k・Mb・{Mb・X/(Ma+Mb)})+k・Ma・{Ma・X/(Ma+Mb)}  =kX/(Ma+Mb)・(Ma2-Mb2)  =kX・(Ma-Mb)  従って、式(8)は  -Ma・Mb(Ma-Mb)/(Ma+Mb) (d2X/dt2)=kX・(Ma-Mb)  ∴Ma・Mb/(Ma+Mb) (d2X/dt2)=-kX 従って、μ=Ma・Mb/(Ma+Mb)とすると、あたかも質量 μ の物体が動かない壁に力の強さ kのバネで つながれた時と同じような次の単振動の式が得られる。 このμを換算質量と呼ぶ。  μ・(d2X/dt2)=-kX
【2.特殊相対性理論の速度合成則(2008/05/19)】 :当HPでの関連ページ「定加速航法のロケット力学(特殊相対性理論)」  簡単のため、一次元の世界で考える。また速度は全て光速度Cで規格化するものとする。 (つまり速度x=0.5としたとき、光速の50%、すなわち0.5Cを表すものとする)  ある観測者Aから見て一定の速度aで動く慣性系αを仮定する。慣性系αの観測者Bから見て一定速度bで 動く物体XがあるときAが観測した物体Xの速度Vについて  ニュートン力学では下記である。  V=a+b 例えば、a=0.9(光速の90%)、b=0.9(光速の90%)とすれば、V=0.9+0.9=1.8(光速度の1.8倍)となる。  特殊相対性理論では下記となる。    V=( a+b )/( 1+a・b )  例えば、a=0.9(光速の90%)、b=0.9(光速の90%)とすれば、 V=(0.9+0.9)/(1+0.9*0.9)=1.8/1.81=0.99(光速の99%) となり、光速度を越えることはない。  相対性理論では物体の速度の上限は光速度であり、a=1、b=1がMAXである。 この場合も、その合成速度は V=1(=光速度)となる。
【3.デシベル(2008/07/10)】 :当HPでの関連ページ「初期のレーダー性能」 無線や電子工学などの分野では、入力信号と出力信号とでは、その大きさが非常に大きく異なることが普通 なので対数をベースとした計算が便利であり、多用される。ここで用いられるのがdB(デシベル)である。 ある実際の物理量XをdB(デシベル)に換算したときの値X'(dB)は、次のようになる。
電力
X' (dB)= 10 log X (W)
利得
X' (dB)= 10 log X (単位無し)
電界
X' (dB)= 20 log X (V/m)
電圧
X' (dB)= 20 log X (V)
電流
X' (dB)= 20 log X (A)
dBへの換算例を示す。  1)50kW(=5×104W)の電力をデシベルに換算する     P=10 log (5×104)   =10 (log 5 + log 104)   =10 (log 5 + 4)   =10 (0.7 + 4)   =47 dBW (1W=0dBWである)  2)200mW(=2×102mW)の電力をデシベルに換算する  P=10 log (2×102)   =10 (log 2 + log 102)   =10 (log 2 + 2)   =10 (0.3 + 2)   =23 dBm (1mW=0dBmである) 3)アンテナやアンプの利得(入力信号に対する出力信号の強さの比)が1000倍のとき、   この利得(無単位)をデシベルに換算する     G=10 log 1000    =10 log 103    =10 × 3    =30 dB
【4.スケールハイト(2008/09/20)】 :当HPでの関連ページ「惑星大気の保持条件」   スケールハイトとは、地表面の大気圧に対して 気圧がe-1 になる高度のことである。  実際の大気では大気圧は高度に対して、ほぼ指数関数に従い、減少する。  地表面の大気圧P0、大気の平均分子量M、大気温度T、地表面の重力加速度g、  気体定数R として、高度による大気温度の変化がないときは、大気の各層が静水圧平衡に従う  という考え方から、高度 h における大気圧Pは次式で表される。  P=P0・e{ -Mgh/(RT) } ・・・(1)  ここで、h=RT/(Mg)のときは、上の式から、P=P0/e となって、地表面の大気圧に  対して e-1となる。  従って、スケールハイトは次の式で定義される。  Hs = RT/(Mg) ・・・(2) (ここでR:気体定数、T:温度(K)、M:分子量(kg/mol)、g:重力加速度 である)  式(1)は、大気の各層が上層の大気の重さを支えるという静水圧平衡の考えであり、下層の大気  ほど高い圧力を持つことになる。  もう一つのスケールハイトの物理的な意味は、どの高度でも地表面の大気圧(または地表面と同じ  大気密度)を持つと仮定した場合の大気の厚さになる。つまり、大気自身の自重による圧縮を考えない  場合の仮想大気の厚さである。  底面が単位面積(1m2)で、大気密度ρ0を持つ、スケールハイトHsの高さの空気柱を考える。  この仮想大気の空気柱では、さきに述べたように大気は非圧縮性として取り扱う。  この空気柱の体積は式(2)からRT/(Mg)(m3)であり、空気柱の質量Mairは、密度と体積の積である  から  Mair=ρ0・RT/(Mg) ・・・(3)  この空気柱の質量に重力加速度gをかけたものが底面にかかる力となる。さらにこの空気柱の底面は  単位面積であるから、力の大きさはそのまま圧力の大きさになる。  従って、この空気柱の底面での圧力、すなわち地表面の大気圧P0は  P0=Mair・g=ρ0・RT/M ・・・(4)  この仮想大気ではスケールハイト以内のどの高度でも圧力はP0となる。  この仮想大気の大気圧P0については、単位体積(V=1m3)の気体の状態方程式から、次式が成り立つ。  ここで n はこの仮想大気の単位体積あたりの大気分子のモル数である。  P0=nRT ・・・(5)  単位体積あたりの仮想大気のモル数 n と大気密度ρ0及び大気の分子量Mには次の関係がある。  n=ρ0/M ・・・(6)
【5. 波動関数の規格化(2008/12/23)】 :当HPでの関連ページ「量子ドットとシュレディンガー方程式」  量子力学ではシュレディンガー方程式を解いて、電子などの粒子の分布を表す波動関数ψを求める。  ある範囲 (0≦x≦L) に閉じ込められた自由電子の波動関数をシュレディンガー方程式で求めると下記である。  ψ=A・sin (nπx/L) (n:主量子数であり、n=1、2、3、・・整数)  上の波動関数は分布の強さを与えるが、大きさである振幅Aはこの時点では分からない。  量子力学では波動関数ψを二乗したものが、粒子の存在確率密度の関数となる。  例えば、振幅Aが決定したψのとき、y=∫ba ψ2dx は、範囲 a≦x≦b の粒子の存在確率密度を与える。 ある区間で粒子の存在確率が分かっているときは、その確率を元に波動関数の振幅Aを求めることができる。 特にある区間で粒子の存在する確率が1のときに振幅Aを決定することを規格化という。   上記の閉じ込められた自由電子の波動関数を例に規格化してみよう。  0≦x≦Lで電子の存在確率は 1 となるので     ∫ L0 ψ2dx = A2L0 sin2 (nπx/L) dx  =A2/2 ∫ L0 { 1-cos (2nπx/L) } dx  =A2/2 〔[x]L0 -[L/(2nπ)・sin (2nπx/L)]L0〕  =A2・L/2=1  ∴A=( 2/L )0.5 従って、規格化された電子の波動関数は下記となる。  ψ=( 2/L )0.5・sin (nπx/L) (n:主量子数であり、n=1、2、3、・・整数) となる。
【6. ハイゼンベルクの不確定性原理(2009/01/18)】 :当HPでの関連ページ「ゼロ点振動」  量子力学の基礎となった原理で、ある粒子の位置と運動量の両方を同時に正確に  求めることはできないという原理である。  言い換えると、運動量の不確かさ⊿pと座標の不確かさ⊿qの積は0にはならないと  いうものであり、次の式で表される。   ⊿p・⊿q≧h/(4π) ・・・・(ここで h:プランク定数)  (2012/1/19 以下青字部分を追記訂正)   上記のハイゼンベルクの不確定性原理の式はウィーン工科大学の長谷川祐司   准教授らのグループによる量子もつれにある中性子のスピン測定の実験により   見直される可能性が出てきた。   名古屋大学の小澤正直教授は1980年代から測定誤差と本来の量子ゆらぎを厳密   に分けた式を提唱していたが、この式は小澤の不等式と呼ばれ、ハイゼンベルク   の式と比べて下記のように2つの項(朱記部分)が増える。   ⊿p・⊿q+σq・⊿p+σp・⊿q≧h/(4π)   (ここで各⊿pは運動量の測定誤差、⊿qは位置の測定誤差、σq:位置の量子ゆらぎ、   σp:運動量の量子ゆらぎ)   長谷川准教授らの実験については、2012/1/15(英国時間)にNature Physics   電子版に掲載されるが、その実験では小澤の不等式の正しさを裏付ける結果が   出た。但し不確定性原理が覆ったわけではなく、より厳密に不確定性原理の式   を見直そうというものであって、量子力学を否定するものではない。   しかし、80年以上に渡って基本とされてきた物理の基本原理の式の見直しであり   ノーベル賞級の業績にも思える。   小澤の不等式では運動量の測定誤差⊿p=0、位置の測定誤差⊿q=0でも位置の   量子ゆらぎσqが無限大、あるいは運動量の量子ゆらぎσpが無限大になれば成立   する。   つまり、従来の不確定性原理と異なり、   『ある粒子の位置と運動量の両方を同時に正確に『求めることができる』!と   いう可能性が出てくる。      もし粒子をある空間座標の固定された一点に閉じ込めようとすると⊿q⇒0、かつσq⇒0   となるだろう。さらに運動量の測定誤差を⊿p⇒0としていくと、当然のことだが     ⊿p・⊿q⇒0   σq・⊿p⇒0   となるが、小澤の不等式から σp・⊿q ≧ h/(4π) となるので、運動量のゆらぎσpは   無限大になるだろう。従って、粒子をある一点に固定することはできない。  このことは調和振動子モデルで粒子の運動を考えたときに絶対零度でも一定の最低  エネルギー、すなわちゼロ点振動エネルギーを持つということに関連してくる。  ここで、調和振動子の例で古典力学と量子力学を比べてみよう。  古典力学による調和振動子モデルでは振動エネルギーは下記のようになる。  E=p2/(2m)+1/2・kq2 ・・・・(1)  (E:振動エネルギー、p:粒子の運動量、m:粒子の質量、k:力の定数、q:座標)  ここで、p2/(2m) は粒子の運動エネルギー項、1/2・kq2は位置エネルギー項であり、  運動エネルギー項と位置エネルギー項の和、すなわち全振動エネルギー E=一定である。    式(1)から、運動量と位置の取りうる範囲は下記となる。  0≦| p |≦(2mE)1/2、 0≦| q |≦ (2E/k)1/2  しかし、式(1)では、E=一定のとき、p が決まれば q が決まり、q が決まれば p が決まる  ので不確かさはない。古典力学ではあくまでも⊿p・⊿q=0となる。    エネルギーについては、古典力学の場合、式(1)のエネルギー E は E≧0で自由で連続的な値を  とりえる。  次に量子力学ではどうだろうか。ハイゼンベルクの不確定性原理から振動子を一点にとどめる  ことや運動量をゼロにすることはできないから、絶対零度でも振動エネルギーをゼロにできない  ということを先に述べた。。  当HPの「ゼロ点振動」では質量 m の粒子がある定点から力の強さ k のバネでつながれて  振動する調和振動子のモデルを量子力学のシュレディンガー方程式を解き、下記のように  ゼロ点振動として知られる最低の振動エネルギー E0 を求めた。   E0=(k/m)1/2・h/(4π) ・・・・(2)  ここで、調和振動子の固有振動数 ν0 は 粒子の質量m、力の定数 kと下記の  関係を持つから  2π・ν0=(k/m)1/2 ・・・(3)  式(2) の 最低エネルギー(ゼロ点振動エネルギー)は次のように表すことができる。  E0=1/2・h・ν0 ・・・(4)  量子力学では調和振動子のエネルギーは、最低エネルギーE0(=1/2・h・ν0)から h・ν0  ずつ不連続に増加する。  En=(n+1/2)・h・ν0 ・・・(5) (n=0、1、2、・・・・・)  この点が 0 以上で連続的なエネルギー値を取りえる古典力学との違いとなる。  尚、古典力学はBohrによって量子条件が導入されて初期量子論に至り、さらにシュレディンガー  方程式や行列力学によって量子力学の完成を見るが、ここで過渡期のBohrの量子条件の役割  をみておこう。     古典力学の調和振動子の式(1)について運動量pと座標qの空間で考えると、Eが一定のときに  p と q が描く軌跡は、p軸方向の半径=(2mE)1/2、q軸方向の半径=(2E/k)1/2の長円となる。  Bohr は従来の古典力学だけでは説明できない水素原子の電子軌道の遷移スペクトルの課題  に量子条件を導入して、これを解決した。  Bohrの量子条件では、∫ p dq =n・h (n=1、2、・・・・:n=整数値) であることを要求する。  ここで、∫ p dq = 長円の面積 にほかならないから、  ∫ p dq =π・p軸方向の半径・q軸方向の半径=π・(2mEn)1/2・(2En/k)1/2  =2π・En・(m/k)1/2=n・h (n=1、2、・・・・:n=整数値)  ∴2π・En・(m/k)1/2=n・h ・・・(6)  式(3)と式(6)から En=n・h・ν0 ・・・ (7) (n=1、2、・・・・:n=整数値)  Bohrの量子条件によって、調和振動子のエネルギーは、h・ν0ずつ増加していくことは示されたが  残念ながらゼロ点振動の E0=1/2・h・ν0 は出てこない。  これが初期量子論とその後に完成された量子力学との違いの一例である。  
【7. 次元解析(2009/05/24)】 :当HPでの関連ページ 特になし  物理式に表れる各物理量(長さ、質量、電荷など)の単位から、その物理式の中の係数の単位を定めたり  予測したりすることを次元解析という。  今、3個の物理量D、E、S と 1個つの係数 K から成り立つ次のような理論式があるときの次元解析をしてみよう。 D=KE/S  ここでDの単位は長さでm、EはエネルギーでJ(ジュール)、Sは面積でm2とする。    上の式からKを求めると  K=D・S/E  これに、分かっている物理量D、E、Sの単位を入れてみると  K=D(m)・S(m2)/E(J)=D・S/E(m3/J)  さらに、エネルギー E はある一定の力(単位はN(ニュートン))とその力が作用した距離(単位mとする)の積  なので、エネルギーの単位のJ(ジュール)は、N×mと同じである。(以降、N×mをN・mで表す)  Jの代わりにN・m を入れると  K=D・S/E (m3/(N・m))=D・S/E (m2/N)  Kの単位は、m2/N となる。また、その逆数である1/Kは圧力やヤング率、引張強度、圧縮強度などと同じ  意味をもつ材料強度に類する物理量であることが分かる。  このことから、  D は単位面積あたりのエネルギーの大きさに比例し、材料強度に反比例することが推定できる。  ここで取り上げた式は、高速徹甲弾が装甲を貫通するときの浸徹長(貫通する厚さ)D を表す式であり、次元解析をする  ことで式の本質が分かりやすくなる一例である。  
【8. 平均自由行程(2012/08/19)】 :当HPでの関連ページ「太陽核融合とトンネル効果」  自由に運動する分子や原子などが他の分子と衝突せずに進む平均の距離のこと。  平均自由行程を導出してみよう。ここでは1種類の分子から成る気体があり、単位体積の中に N 個の分子が  あるものと仮定する。  どの分子も均等に空間を占めると考えれば、1つの分子が占有する体積 V0 は  V0 = 1/N ・・・(1) (単位:m3)  一方、この分子が半径 r で平均速度 v で空間を運動するとき、単位時間に分子が通過した空間の体積 V1は  V1 = 4πr2・v ・・・(2) (単位:m3/s)  単純に考えて、分子の通過した空間の体積が、均等に割り当てられた式(1)の体積を超えると他の分子と衝突  するものと考えると、式(1)を式(2)で割れば、平均衝突時間 t が得られる。  t=V0/V1= (1/N)/(4πr2・v)=1/(4π・N・r2・v)  上の式から、  v・t=1/(4π・N・r2) ・・・(3)  さて、v は分子の平均速度であり、t は平均衝突時間、すなわち衝突から次の衝突までの時間なので、分子が  衝突せずに進む平均距離 、すなわち平均自由行程 L とすれば L = v・t ・・・(4)  従って、式(3)と式(4)から、平均自由行程 L は  L = 1/(4π・N・r2) ・・・(5) (ここで r :分子(または原子)の半径、N:単位体積中の分子数(または原子数))  N は密度(個/m3)であったから、Nの代わりにρ(個/m3)を用い、4πr2は分子(または原子)を球状と考えたときの  断面積であるから 、断面積に a を用いれば、式(5)は次のようにもっと簡単に表わされることになる。  L = 1/(ρ・a) ・・・(6) (ここで a :分子(または原子)の断面積、ρ:単位体積中の分子数(または原子数))
【9. 断熱圧縮(補足)(2017/08/5)】 :当HPでの関連ページ「大気圏突入時の空力加熱」 断熱圧縮に関して、WEB上で議論の多い問題について補足する。   ①元々気体がもっていたエネルギーで高温になる(=明確な誤り)    完全な誤りである。勝手に気体の内部エネルギーが増えて、気体が高温になることはない。    本質は、熱力学第一法則による内部エネルギーの増加である。    高速で大気に突入した物体が物体の前方の大気を圧縮する(=気体が圧縮という仕事を    される)ことで内部エネルギーが増加する。    熱力学第一法則の式は以下である。    dQ(気体に加えられた熱量)=dU(内部エネルギー)+dW(気体がした仕事)    熱のやり取りができないほど短時間で圧縮されるのでdQ=0、次にdWは気体が仕事をされて    いるのでdWは負になる。すなわち、dW<0である。従って、熱力学第一法則の式から次の    ような状況になる。    dU=-dW>0 つまり、圧縮という仕事をされた分だけ内部エネルギーdUが増加する。   ②断熱圧縮も摩擦と同じである(=単純な摩擦ではなく、条件が付く)    ミクロで見れば確かに高速の物体と大気中の個々の気体の分子が衝突することにより、    大気中の分子、原子の運動エネルギーが増すため物体前方の気体の内部エネルギーが    増加するもので物体と大気中の気体の分子の摩擦というのも間違いとは言えない。    但し、重要なことは、あまりにも物体が高速のため、物体の前方で気体が行き場を失い、    熱のやり取りを行う間もなく圧縮されてしまうという閉じた系に近い状況で起こる事象    であり、この場合はポアッソンの式を満たしながら圧縮される(=断熱圧縮)という条件が    付くことである。   ③ボイル・シャルルの法則で圧縮された気体の温度があがる(=誤り)    ボイル・シャルルの法則では大気圏突入時の温度が数千度の温度になることは説明できない。    前述のとおり、ポアッソンの式に従い、気体が圧縮されるため。
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