台風の目の形成(2008/01/15)
 天気図に表された台風をみると中心からほぼ同心円状に等圧線(気圧の等しい
 地点を結ぶ線)が描かれていて、等圧線の間隔が非常に接近した様子が分かる。
 等圧線の間隔が密になるほど気圧傾度が大きくなり、強い風が発生していることになる。

 

  いま、台風の二つの等圧線の最短の2地点を X と Yとするとき、
 地点Xで気圧P1、地点Yで気圧P2で、XY間の距離が r のとき、気圧傾度を Aとするなら

 A=(P1-P2)/r =dP/dr  (1)

    次に立方体の単位体積をもつ大気に作用する力と風の関係を考えてみよう。
  尚、ここでは北半球を想定する。

 まず大気の立方体には気圧傾度の大きさと同じ力が中心方向に働くが、その力をベクトルで
 表せば

 A=(-A,0)  (2)

 次に風が中心方向から角度θだけ傾いて等圧線を横切っているものとすると風速のベクトルは

 V=(-V cosθ,V sinθ)  (3)

  ここで単位体積の大気については、質量m=大気密度ρであり、地球の自転の角速度をΩ、
 緯度をψとして速度の大きさがVであるとき、作用するコリオリ力の大きさは

  C=2ρΩV sinψ (4)

 コリオリ力は風の速度ベクトルVに対して右向きに直交するので、コリオリ力のベクトルは次の
 ようになる。
 C=(C sinθ,C cosθ)  (5)

 気圧傾度による力とコリオリ力の二つの合成力のベクトルは次のようになる。
 G=(-A,0)+(C sinθ,C cosθ)=(-A+2ρΩV sinψ sinθ , 2ρΩV sinψ cosθ)  (6)
 
  風の速度ベクトルVの向きは上で求めた合成力のベクトルGと同じ方向になるはず
 なので、両方のベクトルのx方向とy方向の成分の比は等しくなる。従って次の式が成り立つ。

 -V cosθ:V sinθ=(-A+2ρΩV sinψ sinθ):2ρΩV sinψ cosθ
 ∴A sinθ=2ρΩV sinψ  (7)

 コリオリ力は風の方向を変える作用はするが、風速そのものを生み出すのは気圧傾度の力である。
 風速方向の気圧傾度Aの力の成分で単位体積の大気(質量m=大気密度ρ)に働く力は上の図から
 下記となる。
  A cosθ=ρ(dV/dt)   (8)

 尚、風と地表面との抵抗は、式(8)では無視している。

 ここで、sin2θ+cosθ2=1の関係があるので、式(7)、式(8)の両辺を二乗して、変形すると下記の
 式が得られる。

 (A/ρ)2=(dV/dt)2+(2Ωsinψ)2V2(9)

 気圧傾度 A が一定の地点は台風の中心気圧が強まれば台風の中心から見て外へ、弱まれば内側に
 移動するが、ここではある一定の気圧傾度 A の地点に関して考えてみよう。
 この地点では、式(9)の左辺は定数となるので、直ちに時間 t を含む次の解を得る。

 V=V0sin( kt )   (10) 

 ここで k=2Ωsinψ であり、k はコリオリパラメータとも呼ばれ、コリオリの力に関与するもので
 地球の自転速度Ωと緯度ψだけで決定されるものである。
 時間 t については 0≦kt≦π/2 を満たす範囲で有意である。
 また、V0は風速に関する定数である。
 
  式(10)を式(8)に代入すれば、時刻 t と風の傾きθに関する次の式を得る。

  A/(ρV0k)=cos( kt )/cosθ  (11)

 さらに式(10)を式(9)に代入すれば、気圧傾度と風速に関して次の式を得る。
 (A/ρ)2=(V0k)2
 ∴A=ρV0k  (12)  ( ここでk=2Ωsinψ)

 式(11)と式(12)から、cos( kt )=cosθとなるから
 θ=kt (13)

 式(10)、式(13) から、低気圧の中心に移動する大気について、時間の経過とともに風速Vは増加し、
 低気圧の中心に対する傾きθも増加することが分かる。
 式(10)から風速が最大になるまでの時間は下記であり、風の傾きθ=π/2(rad)=90°となる。
 t=π/(2k)  (14)  ( ここでk=2Ωsinψ)

 式(14)から、台風の渦や台風の中心部に目が形成されるまでの時間はコリオリパラメータで決定され
 、惑星の自転角速度Ω(rad/s)と緯度ψ(rad)に依存し、惑星の自転が早く、高緯度の場所ほど台風の
 渦や台風の目の形成時間が短くなることを示す。
 ちなみに、このモデルでは地球の北緯30°(=π/6 rad) で低気圧が発生したときは中心部の風速は6時間
 で最大となる。

 平均気圧傾度がA、平均大気密度ρで勢力が一定のときの台風の風速については、式(12)からは次の式が
 出てくるが、

 V0=A/(ρk) (15) (ここでV0:定数、A:気圧傾度、ρ:大気密度、k=2Ωsinψ)


 式(15)は地衡風と呼ばれるものの風速であり、実際の台風の風速よりもかなり大きな値になる。

 実際は台風の目に外から近づくに従って、遠心力は無視できなくなり、遠心力、コリオリの力、気圧傾度
 力の3つが釣り合うようになるからである。
 これを傾度風という。従って、台風の風速についてはこの傾度風の考えで導く必要があり、別の機会に
 説明する。

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