カシミール効果(2007/10/12)
 
カシミール効果についてはWEB上でたくさん紹介されているので、ここでは概要だけ説明する。
 
この効果は1948年にオランダの物理学者ヘンドリック・カシミールが予想したもので、平行におかれた
無帯電の2枚の金属板同士に吸引力が働くという効果である。
古典力学で考えれば無帯電の金属板間にはクーロン力は発生せず、また金属板間に働く万有引力
は無視できるほど小さい。しかし、先ほどのオランダの物理学者の予言は半世紀を経た1997年に
米国のロスアラモス研究所で確認されることになる。
 
 この効果が生じる理由は真空からの電子と反電子の発生であり、これにより無帯電のはずの
金属板間にクーロン力が働くというもので、観測結果は量子力学が予測する結果とほぼ一致していた
ということである。
 
 ところで相対性理論を構築したアインシュタインは、数学者の力を借りながらも物理学の一分野と
しての相対性理論をほぼ一人で構築するふだけでなく、初期の量子力学の立ち上げにも光量子論で大きく
貢献したことは良く知られた事実である。
しかしその後、アインシュタインは量子力学の解釈をめぐって、量子力学のコペンハーゲン派と永らく
対立することとなったことも周知のところである。 
量子力学ではコペンハーゲン派の解釈が正統派であり、物質の存在確率を与える波動関数は観測した
時点で「光速度以上の速度」で収束する(物質が実体として表れる。あるいは存在する)というもので
あった。つまりみてないところでは確率のみがあるということになる。
 
 ところがカシミール効果は、量子力学によって金属板間の真空から電子と反電子の発生が計算
できることを示す一方で、コペンハーゲン派の解釈を否定する結果をもたらしたとする解釈をする
人もいる。
 
 すなわち観測しようがしまいが、真空から電子と反電子が生じている(存在する)ことになるという
ものである。アインシュタインは量子力学そのものを否定したわけではなく、コペンハーゲン派の解釈
に反論したのだが、いまさらながら種々の解釈をめぐる確執の深さに驚くものである。
 
 (補足)
  有名なシュレディンガーの猫という思考実験の話がある。ある箱の中に猫が居て、放射性元素の
 崩壊を検出装置が検知すると箱の中に毒ガスが流れて猫が死ぬ仕掛けとなっている。
 コペンハーゲン派の解釈では箱の中を見た瞬間(箱の中を観測した瞬間)に猫の生死が決まる。
 つまり観測するまでは猫は生きた状態と死んだ状態の両方にあるというものである。
 
  さらに補足すれば、従来のコペンハーゲン派の解釈では同一空間で二つの状態があるとき、
 各々の状態関数である波動関数ψ1とψ2の重ね合わせである
 Ψ=ψ1+ψ2
 を状態関数として扱ってきており、計算上でΨを用いても特に問題はない。
 もし、この解釈が誤りということならば、重ね合わせの関数であるΨをこの空間の状態関数と
 見なすのは適切ではないということになる。
 
 シュレディンガー方程式、波動関数という量子力学が用意する計算のツールの有用性は全く
 問題はない。ただ、波動関数とはなにかというような命題になると「解釈」という哲学的な領域
 の話となる。
 
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