§5.空力抵抗係数について(2006/04/23)
§1で導いた大気の慣性抵抗理論を使って、物体の空力抵抗係数CD値を求めてみる。
慣性抵抗理論のの基本方程式は下記である。
-dV=αV2dt (1-1)
ここで V は物体の速度、αは大気による慣性抵抗に関する係数であり次式で表される。
α=ρ・S・λ/M
ここでρ:大気密度、S:物体の飛行方向の軸に垂直な最大の断面積、λ=空気抵抗係数、
M:物体の質量である。
また、αの単位は次元解析からm-1である。
一般の空力抵抗係数CDとλの間には、CD=2λ (2006/06/09LINK追加)の関係があり、
慣性抵抗に関する係数αが分かっている場合は下記の式でCDへの変換が可能である。
(慣性抵抗に関する係数αの求め方は§2、大気の慣性抵抗理論式は§1を参照)
λ=α・M/(ρ・S)
∴CD=2・λ=2・α・M/(ρ・S)
例えば、米軍3インチ対戦車砲M7のM93 HVAP弾 は
距離 La=457mで侵徹長 D(La)=157mm、距離 Lb=914mで侵徹長 D(Lb)=135mm
であるから、§2の式(2-2)を用いて、この砲弾の慣性抵抗に関する係数αを計算すると
α=-1/2・ln{D(Lb)/D(La)}/(Lb-La)=-1/2・ln(135/157)/(914-457)=1.6518×10-4
また、砲弾の断面積S=0.04536m2、砲弾質量M=4.26kg、大気密度ρ=1.23kg/m3から、
空力抵抗係数CDは
CD=2・α・M/(ρ・S)=2・1.6518×10-4m-1・4.26kg/(1.23kg/m3・0.04536m2)
=0.25222
§2及び§3で取り扱った各種砲弾の緒元(断面積S、質量M)と慣性抵抗に関する係数αから、
空気抵抗係数(CD値、λ値)を求めてみる。
砲弾種別 | 慣性抵抗係数α | 質量M | 砲弾の断面積S | 空力抵抗 係数CD値 | 空気抵抗 係数λ値 | 備考 |
HVAP(高速徹甲弾) | 1.65×10-4 | 4.26Kg | 0.004536m2 | 0.252 | 0.126 | 米軍3インチ対戦車砲M7 M93HVAP弾(第二次大戦中) |
APCR(硬芯徹甲弾) | 7.39×10-4 | 0.93Kg | 0.001963m2 | 0.569 | 0.285 | 独軍対戦車砲5cm Pak 38 Pzgr.40(第二次大戦中) |
APFSDS (離脱装弾筒付翼安定徹甲弾) | 6.06×10-5 | 4.1Kg | 0.000804m2 | 0.503 | 0.252 | 105mmM735 |
この結果を見ると第二次大戦中のHVAP弾に対して、ずっと後に登場したAPFSDS弾のほうが
空力抵抗係数CDが2倍ほど大きく、砲弾の形状は空気抵抗を受けやすいことが分かる。
ところがAPFSDS弾の慣性抵抗係数 α はAP弾よりも小さくて実際の空気抵抗による減速は小
さいことになる。
APFSDS弾では、砲弾の直径に対して長さの比が大きく、砲弾の断面積Sに対して質量Mが大
きい。これにより慣性抵抗に関する係数αが小さくなり、減速しにくいのである。
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