§3.105mm/M735 APFSDS 徹甲弾の弾道計算(2005/10/08)

§1及び§2で導いた空気抵抗(慣性抵抗)理論式は、空気抵抗を受け、高速でとぶ物体の短時間の運動に関する
式である。従って、相手の戦車の装甲を貫通することを目的とした徹甲弾のように高速でかつ短時間で着弾する物体
の大気中での運動を予測するのに向いている。

米国のM60戦車等に使用された105mm/M735(APFSDS徹甲弾)に本HPの§1及び§2で導いた空気抵抗(慣性抵抗)
理論式を適用してみよう。

<表 105mm/M735の貫通能力>
射距離(m)対NHS
貫通厚(mm)
1000359
2000318
3000282
飛距離La=1000m、貫通厚D(La)=359mm、飛距離Lb=2000m、貫通厚D(Lb)=318mmとして§2の式(2-2)でこの砲弾の 慣性抵抗に関する係数αを求める。 α=-1/2・ln{(D(Lb)/D(La)}/(Lb-La) =-1/2・ln(318/359)/(2000-1000)=6.06×10-5 係数αが求められたので、§1の空気抵抗(慣性抵抗)の運動エネルギーの式 E(L)=E0・e-2αL  (1-5) で 空気抵抗を受ける砲弾の飛距離 L における運動エネルギーが計算できる。 運動エネルギーと貫通厚が比例するなら、飛距離3000mにおける砲弾の貫通力は次のように簡単な比例計算で求める ことができる。 D(3000)=D(1000)・E(3000)/E(1000) =359・E0e-2α・3000/E0e-2α・1000 =359・0.695E0/0.886E0 =281.6 この計算値は先ほどの表の3000mでの貫通厚282mmと非常によく一致しており、慣性抵抗理論によく従うことがわかる。  105mm/M735APFSDS徹甲弾で発射後0.5秒毎の間隔で予想速度、飛距離の変化、空気抵抗の大きさを2秒後まで 予測し、空気抵抗を考慮しない場合と比較する。尚、砲弾の弾道はほぼ水平弾道であるものとする。 §1の空気の慣性抵抗理論で求めた理論式を用いると 初速V0の砲弾の発射t秒後の時刻における予想速度V(m/s)は V(t)=V0/(αV0t + 1)   (1-2) また、初速V0の砲弾の発射 t 秒後の時刻における飛距離L(m)は L(t)=(1/α)ln(αV0t + 1)   (1-3) これらの式(1-2)、式(1-3)で空気抵抗有りの場合を計算し、空気抵抗なしの場合と比べてみる。 この砲弾の初速は 1501m/sなので、次のような結果になる。

<表 空気抵抗無しの場合>
経過時間(sec)存速V(m/s)飛距離L(m)
0.0(sec)1501.00.0
0.5(sec)1501.0750.5
1.0(sec)1501.01501.0
1.5(sec)1501.02251.5
2.0(sec)1501.03002.0

<表 空気抵抗を考慮した場合>
経過時間(sec)存速V(m/s)飛距離L(m)
0.0(sec)1501.00.0
0.5(sec)1435.7733.9
1.0(sec)1375.81436.6
1.5(sec)1320.72110.5
2.0(sec)1269.92758.0

次に空気抵抗による砲弾減速の加速度の大きさを式(1-7)で計算し、重力加速度1G=9.8m/s2で換算して みる。 先に求めた砲弾発射後の0.5秒毎の経過時間での砲弾の存速(予想速度)を§1の慣性抵抗理論式 (1-7)  dV/dt=-αV2 (α=ρSλ/M) に代入した結果を次表に示す。

<表 空気抵抗の大きさ>
経過時間(sec)空気抵抗による
砲弾の加速度(m/s2)
重力加速度
換算(G)
0.0(sec)-136.6-13.9
0.5(sec)-125.0-12.8
1.0(sec)-114.8-11.7
1.5(sec)-105.8-10.8
2.0(sec)-97.8-9.98

 空気抵抗による砲弾の加速度とその値の重力加速度換算値がマイナス表示なのは、空気抵抗による減速である。 砲弾発射直後(t=0.0)で-13.9G、発射2秒後(t=2.0)でも-9.98Gという減速の加速度が生じており、発射後の短時間 では、重力に比べて空気抵抗の影響が非常に大きいことがわかる。


 仰角 1 度で発射された105mm/M735APFSDS徹甲弾のおおよその弾道を求めて見る。  §1の慣性抵抗理論式から砲弾が水平方向に初速V0で発射されたとき、発射後t秒における飛距離L(m)は  L(t)=(1/α)ln(αV0t + 1)   (1-3)   但し、式(1-3)は慣性抵抗だけ(重力の影響を無視できる短時間という条件をつけて)の微分方程式を解いた結果であり、  重力の影響も含めた2要素になると微分方程式は解けない。  砲の仰角がθのとき、砲弾の発射後 t 秒におけるY座標とX座標について真空中の物体の放物線の式を元に近似式を  考えてみる。真空中の物体の弾道(放物線)の式の V0t の部分に式(1-3)を適用したものである。  Y=(1/α)ln(αV0t + 1)・sin θ -1/2 g t2   (3-1)  X=(1/α)ln(αV0t + 1)・cos θ   (3-2)  但し、(3-1)、(3-2)の式は、重力による砲弾の速度ベクトルの角度変化に関する計算を含まない簡易計算式であり、  極めて短時間の場合の弾道計算にしか適用できない。 長距離の射程のように重力の影響をうける時間が長くなる場合は、より高い精度で弾道を得るには、§1の式(1-2)、(1-3)を  応用して重力による砲弾の速度ベクトルの角度変化を含めたコンピュータプログラムによる逐次演算が必要である。  105mm/M735APFSDS徹甲弾について次の3つを計算し、グラフ化してみる。  ・空気抵抗無しの弾道  ・空気抵抗有りで式(3-1)、(3-2)の簡易計算式で計算した弾道  ・空気抵抗有りでコンピュータの逐次演算で求めた弾道  計算条件は  砲の仰角を 1度、重力加速度は9.8m/s2、慣性抵抗係数α=6.06×10-5、初速=1501.0m/sで  計算している。グラフ上の各点は0.5秒毎に計算された座標で表示している。

 式(3-1)、(3-2)の簡易計算式とプログラム計算の結果を比べてみる。  砲弾発射後の各時刻の飛距離(X軸方向)については、弾道の全範囲で、各時刻のX軸方向の距離は簡易計算式と  プログラム計算で同じ結果となる。  一方、重力の影響を受けるY軸方向の高度は、2秒を過ぎたあたりから簡易計算式とプログラム計算の弾道で乖離が  大きくなる。  コンピュータプログラムは§6. 慣性抵抗計算ツール(TOPページから参照)から利用できる。  長距離射程の場合の弾道では、ライフルによる砲弾の軸に沿った回転運動と大気の相互作用、地球の自転による  コリオリ力、 砲弾が到達する高度における大気密度による慣性抵抗係数の補正、その他制御できない要因による  弾着位置のばらつきなどの要素が入った複雑なものとなるが、ここでは取り扱わない。 (ホームへ) このページの記述及び式(1-2)、式(1-3)、式(1-5)、式(2-2)、式(1-7)、式(3-1)、 式(3-2)の式及びこれらの式を構成する定数や変数の表現は筆者(Toshikazu Miura)に帰属します。




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