§1.空気抵抗(慣性抵抗)理論式 (2005/10/08)
 
高速で空気中を飛行する物体に作用する空気抵抗の影響について、砲弾を例にとり、空気抵抗の大きさや
砲弾の速度の変化、運動エネルギーの変化などを考えてみる。

砲弾が速度 V で空気中を進む場合の空気抵抗の力は、砲弾を速度 V の空気の流れに置いたものとして
流体力学の考えを適用して考えることが出来る。
流体中の物体にかかる抵抗は2種類有り、慣性抵抗と粘性抵抗がある。

一般の基礎物理学の書物では、物体が流体から受ける抵抗の力の大きさを F、物体の流体に対する速度
をV、流体の密度をρ、流体の粘性をηとして、慣性抵抗及び粘性抵抗の式は次のように紹介されている。

慣性抵抗  F ∝ ρV2S (Sは投影面積:流体の流れの方向から見た物体の断面積)
粘性抵抗  F ∝ ηaV   (ここでaは物体の大きさ、球状の場合は直径とする。ηは粘性係数である。)


 流れが遅く、かつ粘性の大きな流体中では粘性抵抗を考える必要があるが、砲弾の場合は高速であり、
空気の粘性は小さいのでここでは慣性抵抗の考えを基にして砲弾の運動を考察する。
尚、粘性抵抗については§7で簡単に紹介する。

水平方向に発射された砲弾が速度 V(m/s) で非常に短い時間 dt 秒、大気中を飛行する場合を想定してみよう。
発射された砲弾は非常に高速であり、発射後の短時間という条件であれば、砲弾の水平方向の飛距離の変化に
比べれば、重力による垂直方向の落下の程度ははるかに小さい。従って、この条件下では重力の影響は無視して
水平方向のみの運動として取り扱っても問題ない。

このとき砲弾が進んだ距離は V dt (m) となる。一方、砲弾に衝突してくる空気の体積は砲弾の進行方向への
投影面積S(m2)として SVdt (m3) となる。地表面での大気密度をρ (kg/m3)とすると、


砲弾に対しては、ρSVdt (kg) の質量の空気が、速度 V (m/s)で衝突することになる。
このとき、砲弾に衝突してくる空気の運動量=(ρSVdt)・V=ρSV2dt

一方、空気の衝突による質量 M (kg) の砲弾の速度の減少を-dVとすると、
砲弾の運動量の変化 =-MdV

ここで、砲弾の運動量の変化∝衝突してくる空気の運動量とすると
-MdV ∝ρSV2dt

空気抵抗は、砲弾の断面積が同じでも砲弾の形状などによっても異なってくる。上の式の比例係数として
砲弾固有の空気抵抗を考慮して、空気抵抗係数 λ(注)を導入してみると
(注)λの代わりにCD値を用いる場合は、λ=CD/2 とすれば良い。詳細は§5参照

-MdV=ρSλV2dt
 
従って、速度 V の砲弾に働く大気の慣性抵抗に関する基本運動方程式は下記のようになる。
 -dV=αV2dt   (α=ρSλ/M)    (1-1)
(ここでρ:大気密度、S:砲弾の進行方向の投影面積、λ:空気抵抗係数、M:砲弾の質量)

式(1-1)から、空気抵抗による砲弾の減速の大きさ -dV は砲弾の速度 V の二乗に比例することが分かる。
また、その比例係数は α=ρSλ/M なので、大気密度 ρ 、断面積 S、空気抵抗係数 λ が大きいほど
減速が大きく、質量 M が大きくなると減速が小さくなることが分かる。

式(1-1)を変形して積分すると、初速 V0 の砲弾の発射後 t 秒における速度V(t) (m/s) の式が得られる。
 V(t)=V0/(αV0t +1)    (1-2)

式(1-2)を時間  t で積分すると、初速V0 の砲弾の発射後  t 秒での飛距離 L(t) (m) L(t)=(1/α)・ln(αV0t +1) (1-3)

式(1-2)と式(1-3)で、(αV0t +1) の項を消去するように操作すると
初速 V0 の砲弾が飛距離 L(m) に到達時の予想速度 V(L)(m/s) が導かれる。

 V(L)=V0・e-αL     (1-4)

速度 V で運動する質量Mの物体の運動エネルギーは E=1/2・MV2 であるから、これに式(1-4)を
代入すると距離 L における砲弾の運動エネルギー E(L) が導かれる。
 E(L)=E0・e-2αL (E0;初期運動エネルギー)    (1-5)

式(1-3)を変形すると、初速 V0 の砲弾が飛距離 L に到達する発射後の時間 t (秒)は
 t={1/(α・V0)}・(eαL -1 )    (1-6)

空気抵抗の大きさの程度を示す砲弾の減速の加速度 dV/dt は、式(1-1)から
 dV/dt=-αV2     (1-7)

式(1-1)~式(1-7)は、水平に発射された砲弾の運動に関して、発射後の短時間という条件下で
重力の影響を無視し、空気の慣性抵抗だけが砲弾に作用するものとして導いた式である。
これらの式を使うと下記のような応用が可能である。
 1) ほぼ水平弾道を描く徹甲弾や高速の隕石のような物体に働く空気抵抗と物体の運動
 2)式(1-2)の速度式や式(1-3)の飛距離の式を用いた飛距離の弾道計算
  (ルンゲ・クッタ法を用いずともオイラー法で十分な精度で弾道計算ができる。)

もし、この係数αが分かれば、その定義から空気抵抗係数λも算出できる。
§2では、砲弾の空気抵抗について、筆者が考案した係数 α と 空気抵抗係数 λ の求め方を紹介する。
(ホームへ) (注)このページの記述及び式(1-1)~式(1-7)の式及びそれらの式を構成する定数や変数の 定義や表現については筆者(Toshikazu Miura)に帰属します。
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