ロシュ限界(2010/1/08)

【1. 潮汐力】

  海の潮の干満を起こす理由が月や太陽の引力による潮汐力に起因することはよく知られて
 いる。また、土星などの巨大外惑星が持つ美しい輪は、近づきすぎた小惑星や彗星が巨大
 外惑星の潮汐力で分解された破片だとも言われている。
 ここでは、潮汐力の原理からロシュ限界の式を導いてみよう。

 まず潮汐力だが、これは他の天体から受ける引力、すなわち重力場の影響によるものである。
 ここで、重力場の中に非常に変形しやすい球状の物体が置かれた状況を仮定する。
 もし物体のどこでも重力場の強さが一様に同じならば、物体の各点A、B、Cに働く力は同じ
 であり、物体は変形せずにその形を保つだろう。
 

 しかし、重力場の強さは、重力の発生源の質量とその質量中心からの距離で決定される。
 従って、距離が違えば同じではない。
 
 質量Mの質点からの距離 R の場所での重力場の強さ a は万有引力の法則の式から簡単に導く
 ことができる。質点を始点として、そこからの距離 R にある地点を終点とする動径のベクトル
 を考えると重力場の強さ a は下記となる。

 a=-G・M/R2 ・・・・(1)
 (a:質点による重力場の強さ、M:質点の質量、G:万有引力定数、R:質点からの距離)

 式の右辺の負の符号は、重力場の方向が動径のベクトルに対して、逆の質点方向となる
 ことを示している。
 尚、本HPでは質点による重力場の強さ=その地点での質点の質量が及ぼす重力加速度と
 して扱う。

 式(1)から分かるとおり、質点からの重力場の強さは質点からの距離の二乗に反比例する。
 質点からの距離Rの近傍において距離の変化に対する重力場の大きさの変化を調べてみよう

 質点からの距離Rから⊿Rだけ距離が変わった地点での重力場の強さの変化量を⊿a とする。
 式(1)を微分すれば、下記のようになる。
 ⊿a/⊿R=2G・M/R3  ・・・・(2) 

 後で述べるが、実はこの重力場の強さの変化こそが潮汐力の原因であり、⊿a は言い方を変え
 れば、潮汐力による加速度になる。
 ⊿a=2G・M・⊿R/R3 ・・・・(3)
 (⊿a:質点による重力場の強さの変化=潮汐力による加速度、M:質点の質量、G:万有引力定数、
  R:質点からの距離=動径、⊿R:動径の変化)
 

  今、質点から距離 R にある半径 r の球状の物体の各点に作用する重力場の変化を次の図で
 考えていこう。
 

 物体の中心点Bに対する点Aと点Cでの重力場の強さの変化を式(3)で計算してみよう。
 点 Aは物体の中心点B に対して質点方向で-r  の距離にあるから重力場の変化量は式(3)で
 ⊿R=-r とおいて
 ⊿a=-2G・M・r/R3 ・・・・(4) (符号は負で質点方向の加速度)

 点 Cは物体の中心点 Bに対して質点から反対方向、すなわち+r  の距離にあるから重力場の
 変化量は式(3)で⊿R= r として
 ⊿a=2G・M・r/R3 ・・・・(5) (符号は正で質点と反対方向の加速度)

  図の白いベクトルは、物体の中心点Bに働く重力場と等しい重力場がA、C各点に作用する
 場合、すなわちA点、B点、C点に一様な重力場が働く場合を表している。
 しかし、式(4)と式(5)に示したように中心点Bに対して点A、点Cの重力場の強さは変化する。
 この図では、点A、点Cにおける重力場の変化を赤いベクトルで示している。
 つまり、実際の各点の重力場は白いベクトルと赤いベクトルを合成したものになる。

  最初に述べたとおり、一様に等しい重力場を表す白いベクトルは物体の変形になんらの関与
 もないので取り払って考えてみてほしい。
 すると、残った赤いベクトルで示すように 点A では質点方向の加速度が加わり、点Cでは質点
 と反対方向の加速度が加わることが分かる。つまり、物体は両側から引っ張られて変形する。
 この赤いベクトルこそが潮汐力であり、潮汐力は、物体の各点に作用する重力場の強さが異なる
 ことに起因する。地球の海が月から受ける潮汐力で紡錘形になるのも同じ理由である。
  
 【ロシュ限界】
  潮汐力が物体を変形させる力を及ぼすことを導いてきた。
 主星に対して伴星が近づきすぎると、伴星は主星による潮汐力で引き伸ばされて、その形を保てず
 崩壊する。主星に伴星が近づいて崩壊を始めるときの主星の中心と伴星の中心間の距離をロシュ
 限界という。
   
 ロシュ限界を導いてみよう。
 平均密度ρ1で半径r1の主星と平均密度ρ2で半径r2の伴星があり、その中心間の距離をRとしよう。
 このとき主星の質量をM1とすると、質量=平均密度×体積なので下記となる。
 M1=4π/3・ρ1・r13  ・・・・(6)

 同様に伴星の質量をM2とすると下記となる。
 M2=4π/3・ρ2・r23  ・・・・(7)

  伴星は自分自身の重力で、伴星を構成する物質(ここでは固体とする)を引き寄せて、天体を
 形成しているものとする。次の図で伴星の表面のP点に作用する主星の潮汐力と伴星の重力の
 関係をみていこう。
  

 主星の質量がM1、主星と伴星の距離はRで、伴星の半径はr2であるから、
 点Pに作用する主星の潮汐力の大きさ ⊿a を式(3)で求めると

 ⊿a=2G・M1・r2/R3  ・・・・(8)

 さらに、式(8)に式(6)を代入すると、次式を得る。
 ⊿a=8π/3・ρ1・G・r2・(r1/R)3 ・・・・(9)

 一方、P点での伴星表面の重力加速度 g は、式(1)の公式に伴星の質量M2と伴星の中心からP点まで
 の距離r2を代入して
 g=-G・M2/r22
  =-G・(4π/3・ρ2・r23)/r22
  =-4π/3・G・ρ2・r2 ・・・・(10)

  潮汐力の加速度>伴星自身の表面の重力加速度、すなわち|⊿a| >| g| ならば、伴星は構成する
 物質を剥ぎ取られ崩壊する。

 さて、伴星の地表面P点において、潮汐力の重力加速度と伴星の潮汐力の加速度の大きさが拮抗
 するとき、すなわち、|⊿a | =| g | のときは式(9)、(10)から

 8π/3・ρ1・G・r2(r1/R)3=4π/3・ρ2・G・r2

 上の式から、ロシュ限界となる主星と伴星の距離Rを求めると下記となる。

 R=(2・ρ1/ρ2)1/3・r1 ・・・・(11)
 (ρ1:主星の密度、ρ2:伴星の密度、r1:主星の半径)

 この式は、伴星が自分の重力のみによって天体として形成され、かつ固体で構成されているものと
 したときの式である。

 伴星が個体ではなく、液体や気体のような変形しやすい物質の場合は、厳密に数式のみで求める
 ことはできないが、近似式として下記の式が知られている。
 R=2.423(ρ1/ρ2)1/3・r1


ロシュ限界の計算ツール 初期値は主星として地球、伴星として月のデータを設定している。
 主星の密度g/cm3  伴星の密度g/cm3  主星の半径km  
伴星が崩壊する主星の中心と伴星の中心間の距離(ロシュ限界) km (個体で構成された天体の場合)
km (流体・気体で構成された天体の場合)
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