量子ドットと電子の遷移エネルギー (2006/05/23)
 
 量子ドットに関する電子エネルギーの遷移とその応用について取り上げてみる。
 
 まず、当HPの「量子ドットとシュレディンガー方程式」の説明を簡単におさらいすると
 量子ドットのような極めて小さな範囲に閉じ込められた一次元の領域での自由電子の運動については、
 ポテンシャルエネルギーは U=0 なので、シュレディンガー方程式は次のようになり
 
 E・ψ=-h2/(8π2m)・∇2ψ
 
 この方程式を満たす波動関数と電子エネルギーは以下のようになった。
 
  波動関数       :ψ=A・sin (nπx/L) (n=1、2、3、・・整数) ・・・ (1)
  電子のエネルギー :En=(nh)2/(8mL2) (n=1、2、3、・・整数)  ・・・ (2)
   ( A:定常波の振幅の定数、n:主量子数、x:電子の位置(0<x<L)、h:プランク定数、m:電子の質量)
 
   n は主量子数であり、0でない整数であるから、このような電子のエネルギーは以下の性質を持つこと
  を説明した。
 
  a) 電子エネルギーは閉じ込められた領域の大きさで決まり、大きさの2乗に反比例する 
 
  b) 電子のエネルギーは連続的な変化せず、主量子数に従い、とびとびの不連続に変化する。
    (主量子数で決まる電子エネルギーをその電子のエネルギー準位という)
 
  さて、ここからが本題の量子ドットに閉じ込められた電子エネルギーの変化(=遷移)とその応用の話になる。
 
 まず、a)の性質から、
 決まったサイズの量子ドットを作ることができれば、量子ドットの中の電子のエネルギーの大きさを決めること
 ができる。
 
 では、b)の電子エネルギーの変化はどのようにして起こるのだろうか?例えば、低いエネルギー準位から高い
 エネルギー準位に変化するには外からエネルギーを吸収する必要がある。逆に高い準位から低い準位に移る
 ときは外部にエネルギーを放出しなければならない。
 これに関与するのが電磁波(つまり光)であり、光の吸収と放出による電子エネルギー準位の変化を電子の
 エネルギー遷移という。
 
  この a) と b) の性質から、決まった大きさの量子ドットに電子を閉じ込めたときは、その電子は特定の振動数
 の光を吸収したり、放出することができるという非常に有用な性質を持つことになる。
 
  b) の性質から電子のエネルギーの大きさは主量子数に応じて決定された値になるので、電子エネルギー
 の遷移が起こる場合は、主量子数で決まるエネルギー準位間のエネルギーの差に等しいエネルギーを持つ
 光しか吸収または放出できない。
 
 一方、光のエネルギー(光子一個の)は次のように振動数で決定している。
       E = hν ( h:プランク定数、ν:光の振動数) ・・・(3)
 
 基底状態(最低エネルギーの最も安定した状態)である主量子数 n=1 の電子のエネルギー準位から、
 一つ上の電子のエネルギー準位 (主量子数 n=2 ) に遷移するために必要なエネルギーを計算してみよう。
 
 主量子数 n のときのエネルギーは 式(2)から En=(nh)2/(8mL2)であるから
 
  E2-E1
  =(2h)2/(8mL2)-h2/(8mL2)
  =3h2/(8mL2)  ・・・ (4)
 
   この遷移で、電子の遷移エネルギーに等しいエネルギーの光しか吸収しないならば、式(3)、(4)から
 光の振動数 ν は次のように決まってくる。
 
    hν=3h2/(8mL2)
 ∴ν=3h/(8mL2)
 
 逆に、n=2のエネルギー準位から、n=1のエネルギー準位に戻るときは、上で求めた振動数と同じ振動数の
 光を放出して基底状態となる。
  
  このように、量子ドットの大きさを決めてやると電子のエネルギー遷移を利用して、特定の振動数の光を
 吸収させたり、発光させることができるようになる。この性質を利用して量子ドットはレーザーなどの分野で期待
 されている。
 

2006/06/20 formのフォーマット更新 遷移エネルギー計算ツール(2006/05/26) 一次元の空間の自由電子を励起(より高いエネルギー状態にすること)するのに 必要なエネルギーと光の波長を計算する。
空間サイズを変えて計算してください。1nm=10-9m 空間サイズ(nm) 自由電子の基底状態(主量子数 n=1)での電子エネルギーは ×10乗 J 主量子数 n=1 と n=2 の間の遷移エネルギーは×10乗 J 吸収または放出する光の波長は mm 主量子数 n=2 と n=3 の間の遷移エネルギーは×10乗 J 吸収または放出する光の波長は mm
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