逆浸透法による淡水化と必要なエネルギー(2018/3/31)

【1.逆浸透圧とファントホッフの式】
  
 「浸透圧と逆浸透法」のページでは
 淡水化施設による人工的な水資源を開発した例として、一日に100,000tの海水から50,000tの
 淡水を供給する福岡の「まみずピア」を紹介した。
 さらに、この施設で実施している逆浸透方式という真水を作る方式で海水側に加えられるべき
 圧力値をファントホッフの式を用いて計算した。
 このページでは、100,000tの海水から50,000tの真水を作る時に必要な最小エネルギーを求めて
 みる。

 ファントホッフの式とは以下のようなものであった。
 浸透圧をΠ(N/m2)、モル濃度M(mol/m3)、気体定数R(8.314J・mol-1・K-1)、温度T(K)
 とすると

  Π=M・R・T (ファントホッフ(van't Hoff)の式)

 ここで注意すべきは、海水の場合、塩化ナトリウムNaClは以下のようにほぼ100%電離し

  NaCl(1mol)→Na(1mol)+Cl(1mol)

 1molのNaClは、1molのNa、1molのClの合計2molのイオンに変化する。
 
 ファントホッフの式に適用するモル数として注意すべき点は、溶質が電離してできるイオンの
 モル数と電離しなかった溶質のモル数をすべて合計したものを適用するという点であった。
 NaClの1molは水に溶け、ほぼすべて合計2molのイオンに変わるから、NaClの2倍のモル数を適用
 しなければならない。(「浸透圧と逆浸透法」のページも参照)

 
【2.逆浸透圧における真水の抽出に必要な理論上の最小エネルギー】

 体積 V の海水側に圧力Πをかけて、面積Sの浸透膜を通し、海水側から微小な体積 dV の真水が
 抽出される場合を考える。浸透膜の表面から噴き出してくる真水の層の厚みをdxとする。

 このとき、-dV=S・dx (1) 

 (1)の-符号は真水側に厚さdxの水がしみ出した分、圧力をかける塩水の体積がdVだけ「減少」
 することを示す。

 圧力Πで面積Sの浸透膜からdxの厚みの水を押し出したので、このときに使われた微小エネルギー
 dEは下記となる。

 dE=Π・S・dx (2)

 式(2)にファントホッフの式を適用し、さらにMのモル濃度はモル数(n)/体積(V)であることから
 dE=Π・S・dx=(M・R・T)・S・dx=(n/V)・R・T・S・dx (3)

 (1)からS・dx=-dVであるから、式(3)は次のようになる。
 dE=(n/V)・R・T・S・dx=-(n/V)・R・T・dV

 ここで、海水の温度 T は一定と仮定する。海水側のNaとClイオンの合計モル数 n も一定、
 Rも定数だから、n、T、Rは定数となり、

 E=∫dE=-∫(n/V)・R・T・dV=-n・R・T∫dV/V

 この式は、真水側から海水側に浸透してくる水の浸透圧よりも極めてわずかだけ大きい圧力を
 海水側にかけ続けながら浸透膜から真水だけをろ過して押し出す方式(逆浸透方式)であり、
 最小のエネルギーを計算する式になる。
 実際はもっと短時間で供給すべき量の水を取り出すために大きな圧力を加えて処理するため、
 消費されるエネルギーはもっと多くなる。

 従って、体積 a の海水を体積 b になるまで逆浸透法で真水を抽出するときの最小エネルギー
 の式は

 
 E=-n・R・T∫ba dV/V=-n・R・T∫ba dV/V
 =n・R・T・ln(a/b) (4)
  

 ここで3.5%の塩水100,000tから真水50,000tを作るときの最小エネルギーを式(4)を用いて求めてみる。
 少々乱暴で厳密さを欠くが、ここでは塩水100,000tの体積を100,000m3とする。
 海水の塩分濃度は、ほぼ3.5%の塩水に等しく、1m3に含まれる塩化ナトリウムのモル数は
 
 3.5g/100cc×106cc=3.5×104g=35Kg

 塩化ナトリウムの分子量は58.44g/mol=0.05844Kg/molなので、海水 1m3中の
  塩化ナトリウムのモル数は

 35(Kg)/0.05844(Kg/mol)=598.9mol

 冒頭に述べたように塩水の場合、ファントホッフの式に適用するモル数は水溶液に含まれる
 塩化ナトリウムのモル数を2倍したものとなるので
 
 適用するモル数=598.9×2= 1197.8 mol/m3

 単位体積である1m3あたりのファントホッフの式への適用すべきモル数が求められたので、
 塩水 100,000m3のモル数は
 n=1197.8・100,000=119,780,000mol
 
 式(4)で、逆浸透処理前の海水の体積 a=100,000m3、逆浸透処理後の海水の体積 b=50,000m3として、
 海水の温度は288.16K(=常温の15℃)とすれば

 E=n・R・T・ln(a/b)=119780000・8.314・288.16・ln(100000/50000)=0.19891×106MJ

 100,000tの海水から50,000tの真水を作るのに必要な最低エネルギーを電力に換算してみよう。
 1kWh(キロワット時)=3.6MJであるので

 0.19891×106(MJ)/3.6(MJ/kWh)=55,252kWh


 逆浸透方式により塩水から淡水を取り出すときの最小エネルギー(理論値)を計算するツール
 淡水を取り出す塩水の塩分濃度(%)(初期値3.5%)  淡水を取り出す塩水の温度(℃)(初期値15℃)  逆浸透方式で処理する塩水の体積(m3)(初期値100000)   逆浸透方式で抽出する真水の体積(m3)(初期値50000)  
 所要の最小エネルギー(MJ)  電力換算値(kWh)
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