浸透圧と逆浸透法(2011/8/16)

【1.淡水化施設】
  東日本大震災による福島原発事故で電力需要が逼迫し、今年の夏は電力消費量に連日注目が
 集まった。ライフラインとしては電力やガスなどのエネルギーもさることながら最重要なものと
 してはやはり水になる。

 水資源確保の手段としてダムが頭に浮かぶが、これも天候しだいの部分があり、人口が集中する
 関東地方、雨量の少ない瀬戸内海に面する四国北東部ではしばしば渇水に苦しめられている。
 さらに大きな河川を持たない福岡地方では昭和53年(1978年)のカラ梅雨で時間制限による給水
 が287日間におよぶ大渇水となったことは有名である。しかしダム開発も工期や環境への配慮、
 建設するための適地がないなどの問題がある。このような背景もあり人工的に淡水を作る施設の
 導入が国内でも盛んになってきている。

 淡水化施設による人工的な水資源を開発した例としては一日50,000tの淡水を供給する福岡の
 「まみずピア」があり、2011年時点で国内最大級の施設である。

 施設の説明や仕組みの概要は上の「まみずピア」のサイトに非常にわかりやすく解説されている
 ので是非ご覧いただきたい。

 
【2.浸透圧】

 ろ過した海水にはさまざまな電解質が溶け込んでいるが、もっとも多いのは塩化ナトリウム
 (NaCl)である。海水は約3.5%の塩水(100ccの水に3.5gの塩化ナトリウムを溶かしたもの)と
 みてよい。この場合は塩が溶質、水が溶媒であり、塩水が溶液である。

 水分子が通りぬけられる程度の小さな穴を持つ透過膜で仕切った容器の両側に海水と真水を
 入れると真水側から塩水側に水が浸透していく。これが浸透圧である。

 浸透圧をΠ(N/m2)、モル濃度M(mol/m3)、気体定数R(8.314J・mol-1・K-1)、温度T(K)
 とすると次の関係がある。

  Π=M・R・T (ファントホッフ(van't Hoff)の式)

 浸透圧Πは圧力(P)であり、Mのモル濃度はモル数(n)/体積(V)とみれば、ファントホッフの式
 は理想気体の状態方程式 PV=nRT と同じ形であることが分かる。

 さて、3.5%の塩水の浸透圧を段階を追って計算してみよう。

 1)1m3(=106cc)の3.5%塩水に含まれる塩化ナトリウムの量

   3.5g/100cc×106cc=3.5×104g=35Kg

 2)モル濃度 M(mol/m3)

  塩化ナトリウムの分子量は58.44g/mol=0.05844Kg/molなので、上記1m3の塩水の
    塩化ナトリウムのモル数は

  35(Kg)/0.05844(Kg/mol)=598.9mol 

  さて、単位体積(1m3)中のモル数が求められたが、ファントホッフの式のモル濃度として
  直ちに 598.9 mol/m3を用いてよいかという点には次のような注意が必要である。

  水に溶けても電離しない砂糖のような物質では上記のような計算で求めたモル濃度を使用する。
  しかし、塩化ナトリウムのように水に溶解したときにナトリウムイオンと塩素イオンにほぼ100%
  電離するものでは、イオン粒子全体のモル数でモル濃度を求めなければならない。

  塩化ナトリウムは水に溶けると下記のように電離する。

  NaCl→Na+Cl

  つまり、1molの塩化ナトリウムから、1molのナトリウムイオンと1molの塩素イオンに電解して、 
  合計 2mol のイオンが発生する。イオン粒子全体のモル数をもってモル濃度とするならば、モル
  濃度としては水に溶けた塩化ナトリウムのモル濃度の 2倍 になる。

  従って、モル濃度 M = 598.9×2= 1197.8 mol/m3
  
 3)3.5%海水の浸透圧Πを求める

  モル濃度 M が求められたのでファントホッフの式から浸透圧を求める。
  温度15度(288 K)での浸透圧を求めてみよう。

  Π=M・R・T=1197.8×8.314×288=2868051(N/m2)

  1気圧=101325(N/m2)であるから
  2868051/101325=28.3(気圧)
  
  つまり、海水側に浸透してくる真水を防ぐには少なくとも海水側に約28気圧程度の圧力を加える
  必要がある。あくまでも、この圧力は真水側からの浸透を食い止めるのに必要な強さであり、
  海水側から真水側に淡水を押し出すためには、もっと強い圧力を加えねばならない。


 【3.逆浸透法】

  逆浸透法は、浸透圧以上の圧力を海水に与えて淡水側に水分子を押し出す方式である。

  冒頭に紹介した「まみずピア」では100,000tの海水から50,000tの淡水を作っているという
  ことなので、50,000tの塩水側に元の海水のほとんどの塩化ナトリウムが残留することになる。
  つまり海水の塩分濃度は倍になる。
  元の海水は、約3.5%の塩水なので約7%まで濃縮されるだろう。

  この淡水化施設の設備には7%の濃度を持つ塩水の浸透圧に釣り合う圧力を海水に与える能力
  が要求されることになる。

  ファントホッフの式から海水のモル濃度が2倍になれば、浸透圧も2倍になる。温度15度(288 K)
  の条件では、逆浸透法で淡水を作るために必要な海水に加える圧力は次のようになる。

   28.3気圧×2=56.6気圧

  これは 1m2あたり585.3 tonという圧力になる。


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