微生物とプレバイオティクス (2014/06/15) ヨーグルトなど発酵食品は健康に良く、これらの食品は乳酸菌や酵母などの力で発酵する。 一方、腸内には腐敗菌(いわゆる悪玉菌)がいて、人の体調を崩したりする困った微生物も 存在する。これに対してヨーグルトなどに含まれる乳酸菌は善玉菌の代表であり、悪玉菌を 抑え込んでくれる存在である。また、善玉菌の代表である乳酸菌はオリゴ糖のような物質で 増加が活発になることはよく知られており、このような物質はプレバイオティクスと呼ばれ ている。今回は単純かつ勝手な仮定による数学的モデルを設定して、善玉菌と悪玉菌の攻防 と援軍になるプレバイオティクスの関係を考えてみる。 今、腸内のある領域において善玉菌の数を x 、悪玉菌の数を y とする。 この領域で、ある短い期間における悪玉菌の善玉菌に対する増加数を考えよう。 悪玉菌の善玉菌に対する増加率を dy/dx とおく。 dy/dx は悪玉菌自身の数に比例して増加、善玉菌の数に比例して減少するものと仮定して 次の式を考える。 dy/dx=-ax + by (a>0、b>0で定数) ・・(1) ここで、a は善玉菌による悪玉菌の淘汰の係数を示し、b は悪玉菌自身の増加の係数を示す。 さて、式(1)は、一階線形微分方程式であり、解を持つ方程式として良く知られた下記の式と 同じ形になる。 dy/dx+P(x) y =Q(x)・・(2) 式(2)において、P(x)=-b、Q(x)=-ax と置けば、式(1)と同じになる。 式(2)の一般解は下記である。 y=[∫Q(x)・exp{∫P(x)dx}dx + const.〕・exp{-∫P(x)dx}(ここでconst.は定数) 従って、式(1)の解は y=a/b・{x+(1/b)}+A・ebx (A:定数)・・(3) 悪玉菌の数の初期値を y=y0、善玉菌の数の初期値をx=x0 として、(3)に代入すると A=[y0-a/b・{x0+(1/b)}]/ebx0 ・・(4) 善玉菌に対するプレバイオティクスの補給量を増やせば善玉菌は増加するが、一方では善玉菌 の増加に従い、プレバイオティクスの消費も増える、これによりプレバイオティクスの残量も 減少するので、善玉菌の増加率はゆっくりになるものと仮定する。 善玉菌の増加数を dx/dt 、単位時間あたりのプレバイオティクスの補給量を Eとする。 一方、善玉菌の数に比例してプレバイオティクスが減少することを想定して次の式を仮定する。 つまり、ここではプレバイオティクスの残量と善玉菌の増加率が比例するものと仮定してすると dx/dt=H(EーG・x) (G:プレバイオティクスの消費に関する定数、H:定数)・・(5) この微分方程式を解くと x=(E-e-G・H・t+B)/G (B:定数)・・(6) t=0のとき、x=x0として B=ln(EーG・x0)・・(7) 善玉菌の数 x と悪玉菌の数 y の関係を示す式(3)と、式(3)の定数 A を決める式(4)、および 単位時間あたりのプレバイオティクスの補給量による善玉菌の数の時間変化の式(6)と、式(6) の定数 B を決める式(7)を得たので、いくつかのパターンを想定して、下記のパラメータを 変えながら、善玉菌と悪玉菌の時間変化をシミュレーションをしてみよう。 x0:善玉菌の数(初期値) y0:悪玉菌の数(初期値) a:善玉菌による悪玉菌の淘汰の係数 b:悪玉菌自身の増加の係数 E:単位時間あたりの栄養の補給量 G:プレバイオティクスの消費に関する定数 H:係数 【パターン1】 まずは悪玉菌の数が善玉菌の2倍、プレバイオティクスの補給を2として下記条件で シミュレーションをしてみる。 x0=1、y0=2、a=1.1、b=1、E=2、G=1、H=1では 縦軸は菌の数、横軸は時間の経過を示す。 善玉菌、悪玉菌ともに増加するが、悪玉菌が優勢である。まあ、悪玉菌の初期の数が2倍もあるので善玉菌も 簡単には勝てない。 【パターン2】 パターン1に対して、プレバイオティクスの補給を2倍にしてE=4として シミュレーションしてみる。プレバイオティクスは善玉菌の食糧であるが、何より善玉菌の数も増やせる。 x0=1、y0=2、a=1.1、b=1、E=4、G=1、H=1では 悪玉菌は一旦増加するが、時間の経過とともに善玉菌が優勢となり、悪玉菌の数は初期値の2よりも低く抑え 込まれるようになる。 【パターン3】 パターン2に対して、善玉菌の数について初期値を10%増加させて、x0=1.1で シミュレーションすると この場合は、善玉菌の圧勝になる。 善玉菌はプロバイオティクスと呼ばれるが、プロバイオティクスの摂取とプレバイオティクスの 補給を同時に行うとずいぶんと悪玉菌の減少に効果がありそうである。しかし、善玉菌の摂取も かなり有効になるとしても、実際問題として生きたまま乳酸菌などを腸に届けるのは難しいらしい ので、どうなんだろうか? そういうことができるようにわざわざ特定保険食品などがあるんだからメーカーもたぶん開発する のはたぶん大変なのだろうなと考えた。 今回は、善玉菌と悪玉菌の数とプレバイオティクスなどの関係について、勝手な数学的モデルを 作って考察してきたが、実際の実験値と比較して、違うモデルをいろいろ考えてみるのもなかなか 面白そうだなと思う。 (ホームへ)