小惑星探査衛星はやぶさへの太陽輻射圧について(2005/11/11) 2005/9、日本の小惑星探査衛星「はやぶさ」は地球から見てちょうど太陽の裏側にある小惑星 イトカワ近傍に到着し、おおよそ10~20km程の距離を保って留まっている。 この時点でイトカワと太陽の距離は約1億5000万kmで地球と太陽の距離と同じであり、地球から見て 太陽のほぼ反対側になるので地球からは3億キロ彼方の距離になる。 「はやぶさ」自体は小惑星表面への着陸と小惑星サンプル入手という世界初のミッションを行おうと しているが、その前にいくつか世界初のことを成し遂げている。 1)地球の重力を利用したスイングバイ航法+電気推進機関(イオンエンジン)航行は世界初である 2)イオンエンジン搭載衛星としては最も遠くまで飛んだ衛星となった。 また「はやぶさ」はある程度接近すると自分で小惑星を捕らえ、所定の位置まで接近する自律機能を もったロボット型衛星でもある。 (電波での指令のやり取りも3億kmも離れていると、電波の往復時間及び指示、操作で40分近くかかる ので自律が必要だったこともある) これから「はやぶさ」は小惑星イトカワに降下して小惑星表面のサンプル採集のミッションを行うが、この ミッションにおける太陽からの光の影響について取り上げてみたい。 一般的に我々が光というものを考えたときに明るさや熱といったものは身近だが、圧力については ほとんど意識しない。(または光にも圧力があることを知らない人のほうが多いかもしれない) さきほど、「はやぶさ」が小惑星から距離を保って留まっていると述べたが、実際には太陽からの光の 輻射圧の影響を受けるため、なにもしなければ「はやぶさ」は一日あたり 1cm/s の加速度を受け、 小惑星に近づいてしまう。「はやぶさ」が小惑星へ着陸する時は着陸時の衝撃で機器を破損しないように ゲートウェイポジションと呼ばれる所定の位置への到着後、慎重に速度を制御して接近していく。 ある定位置Oからの移動距離を、光の輻射による加速度1cm/s/日として計算すると、1日目には 432m、2日目1728m、3日目3888mの移動となり、3日後には4Km弱も流されてしまう。 今回の小惑星のサンプル採集ミッションでは光の輻射圧の影響を考慮しなければならなくなる。 さて本題である光の圧力について考えてみよう。 光は粒子と波の性質をもつことはよく知られている。電子のような小さな物質も粒子であるが波動性を もっており、フランスのド・ブロイは電子の研究を通して電子の運動量と電子線の波長に次の関係がある ことを見出し、物質波という概念を唱えた。 ド・ブロイの式は、次のようなものである。 P=h/λ (1) (ここで P:運動量、h:プランク定数、波長λ) 一方、アインシュタインの光量子論から、光子1個のエネルギー E は E= h ν (2) (ここで E:光子1個のエネルギー、h:プランク定数、ν:光の振動数) 光にも式(1)を適用すると、光の波長λ=光の速度(C)/光の振動数(ν)であるから ある光子1個の運動量 P とエネルギー E は次の関係になる。 P=h/λ=h/(C/ν)=h ν/C=E/C 毎秒光子 n 個が「はやぶさ」に衝突してくるならば、その光子による全運動量 PALL は 光子の1個あたりの平均運動量 PAVE 、光子1個あたりの平均エネルギー EAVE として以下のようになる。 PALL= n・PAVE= n・EAVE/C (3) ここで、「はやぶさ」に働く力を考えてみる。 一日あたり 1cm/s の加速度であるから、毎秒あたりの普通の加速度に変換すると 加速度 a = 1(cm/s)/1日=10-2(m/s)/86400(秒)=1/8640000 ms-2 「はやぶさ」の重量Mが500kgであるから、「はやぶさ」に働く力 F は次のように推定できる。 F=M×a=500/8640000=5/86400 N 一方、F は「はやぶさ」が受ける毎秒あたりの光の全運動量 PALL と等しいので、(3)から F=PALL= n・EAVE/C ∴5/86400 N= n・EAVE/C ここで光速度 C=3×108mであるから、「はやぶさ」が毎秒受ける光の全エネルギー EALL は EALL= n・EAVE=5/86400×3×108=17361J 但し、これは「はやぶさ」が光をすべて吸収した場合の想定になる。 逆に「はやぶさ」が光を全部反射するならば、1/2の光のエネルギーで同じ圧力を受けることになる。 (非弾性衝突と完全弾性衝突の違い) 「はやぶさ」の反射率は不明なので、光を全部反射する場合と全部吸収する場合を考えると 毎秒受ける光のエネルギーは約8500J~17000J(=8500W~17000W)の間と推定される。 (ホームへ) このページの無断転載、無断引用は禁じます。