GPSへの相対性理論の応用(2014/03/20)

【1.一般相対性理論とGPS衛星での時間の進み】 

 一般相対性理論によれば、ブラックホールによる時空の曲りにより、場所によって時間の経ち方が
 異なる。ブラックホールの中心から距離 a での経過時間を Taとして、距離 b での経過時間をTb、
 ブラックホールの半径(=シュヴァルツシルト半径)をRとすれば、下記の関係がある。
 (シュヴァルツシルト半径については、当HPの「ブラックホール近傍の時間」参照)

  Ta={(1-R/a)/(1-R/b)}1/2・Tb ・・・(1) 

 式(1)はブラックホールに関する時間の遅れだけでなく、地球を周回する人工衛星と地表面の時間の
 ずれの計算にも応用できる。地表面と数百km上空では重力場の強さは異なり、上空に行くほど
 重力場は弱くなる。重力場の強い地表では時間はゆっくりと流れ、高度数百kmでは時間の流れは
 早くなる。

 さて、我々は地球の中心から約6400km離れた地表で約9.8m/s2の重力加速度を受けている。
 一方、地球と同じ質量を持つブラックホールから約6400km離れたところでは、やはり9.8m/s2の重力
 加速度が働くはずである。つまり、地球をそれと同じ質量のブラックホールと置き換えてもブラック
 ホール中心からの距離=地球の中心からの距離(但し、6400km以上とする)であれば重力場の強さは
 変わらない。
 従って、地表の時間の進み方や高度20000kmを飛ぶGPS衛星の時間の進み方についても地球と同じ
 質量のブラックホールを想定して、そのブラックホールの中心からの距離に応じた時間の進み方と
 して、式(1)を使って計算することができる。

 高度20000kmを周回するGPS衛星と地表の時間差を計算してみよう。
 GPS衛星の時間をTa、地表の時間をTbとする。

 GPS衛星の地球の中心からの距離 a は地球の半径6400kmと高度20000kmの和になるから
 a = 6400km+20000km=26400km=2.64×107m となる。

 地表面の地球中心からの距離 b は、地球の半径が約6400kmなので
 b=6400km=6.4×106mである。

 尚、地球の質量を持つブラックホールのシュヴァルツシルト半径は約9mmなので
 R=9mm=9×10-3mとする。

  ここで、R/a、R/bとも≪1であるから(≪は・・に比べて非常に小さいを表わす記号)、
 式(1)は次のように簡素化できて、次の式(2)を得る。

 Ta={1-R/(2a)+R/(2b)}・Tb ・・・ (2)

 従って、地表面で1秒経過したとき、すなわち Tb=1 のとき、式(2)からGPS衛星の
 経過時間 Taは

  Ta={1-9×10-3/(2×2.64×107)+9×10-3/(2×6.4×106)}・1
 =1+5.3×10-10 ・・・(3)

 つまり、重力の弱い高度にあるGPS衛星では地表に対して100億分の5.3秒進む。

【2.特殊相対性理論とGPS衛星での時間の遅れ】
 
 一方、特殊相対性理論では止まっている観測者に対して運動する物体の時間は遅れることになる。
 GPS衛星は毎秒約3.8kmで地球を周回し、地表の観測者に対して高速で運動している。

 特殊相対性理論では、GPS衛星の速度を v とする時、GPS衛星側の時間τは地表の時間 t に対して
 次の関係がある。

 τ=t・(1-v2/c2)1/2 ・・・(4)

 (τ:GPS衛星の時間、t:地表の時間、v:GPS衛星の速度、c:光速度) 

 さらに、v/c≪1であるから、式(4)は次の式に近似できる。
 τ=t・{1-(v/c)2/2} ・・・(5) 
 
 地表の時間で1秒経過したとき、すなわちt=1のとき、式(5)から

 τ=t・{1-(v/c)2/2}=1・{1-(3800/3×108)2/2}
  =1-8×10-11 ・・・(6) 

 つまり、地表に対して高速で動くGPS衛星の時間は8×10-11秒遅れる。

 さて、GPS衛星時間の補正としてはこれまで見てきたように高度によって異なる重力場の強さに
 よって発生する時間のずれとGPS衛星の高速運動による時間のずれの両方を考慮した補正が必要
 になる。

 地表の1秒に対するGPS衛星の時間のずれ
 =重力場によるGPS衛星側の時計の進み+対地表速度からのGPS衛星側の時間の遅れ
 =5.3×10-10-8×10-11=4.4×10-10秒
 従って、地表の1秒に対してGPS衛星の時間は4.4×10-10秒ほど進むことになる。

 もし、このような補正をせず一日(86400秒)放置した場合のずれは
 86400×4.4×10-10=3.8×10-5(秒)

 各衛星から光速度(3×108m/秒)で伝搬する信号の時間差で位置を決める方式では、一日放置した時の
 距離のずれ L は次のように大きなものになる。

 L=3×108m/秒×3.8×10-5秒=1.14×104m=11.4km

 つまり、1日放置するなら、11.4km近くの距離のずれとなってしまう。

 GPSではこのようにして一般相対性理論と特殊相対性理論の両方で予測されるGPS衛星と地上との時間
 の進み方を基に時間を補正して位置情報の精度を保っている。

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