銀河回転問題 (2015/07/22) 【1.恒星系における天体の運動】 恒星とその恒星系の惑星の運動はニュートン力学で十分に正確に記述できる。 恒星の質量をM、惑星の質量をmとする。恒星の中心と惑星の中心の距離をrとしよう。 また、万有引力定数をG、惑星の公転速度をvとすると、 惑星が円軌道を描く場合は恒星が惑星を引き寄せる万有引力と惑星の運動の遠心力が 釣り合うので下記の式となる。 GMm/r2=mv2/r ・・・(1) 上の式から惑星の公転速度は、 v=(GM/r)0.5 ・・・(2) つまり、恒星から遠い惑星ほど(r が大きくなるほど)、公転速度vは遅くなる。 【2.銀河の回転問題】 銀河の中心部では恒星系が密集し、外側に外腕部を伸ばしながら渦を巻き、周辺系 につながっている。銀河系の場合は恒星系の分布、すなわち銀河内の質量の分布も恒星系 に比べて複雑になるものの、ニュートン力学上の計算から中心からある距離以上では公転 速度が遅くなると見られていた。ところが公転速度は落ちずに中心から離れて行っても ほぼ一定の速度で回転していることが観測されているのである。 ニュートン力学から期待される振る舞いと異なる観測結果が得られ、天文学者は大いに 悩むことになるが、これが銀河回転問題と呼ばれるものである。 式(2)を見て万有引力定数Gが変わらないとすれば、銀河中心からの恒星系までの距離 r に 応じて、質量が変わっているのであろうか? 恒星と惑星の運動から導かれた式(2)を銀河にも適用してみる。 銀河の中心から距離 r にある恒星系の銀河に対する公転速度をvとする。 銀河中心部に銀河の全質量Mを仮定し、恒星系はその質量の影響を受けて円運動をしていると 考えると、質量Mは M=v2r/G・・・(3) 銀河では周辺系の公転速度 v は距離が遠ざかってもあまり変わらないという観測が得られて いるので、v は一定としてみる。万有引力定数Gも変わらないとすれば、v2/Gは当然一定と なるので、式(3)は次のように表すことができる。 M=αr (ここでα=v2/Gで一定)・・・(4) 中心から離れるほど銀河の質量が「一定」の割合で増加していることになる。 そこでこの未知の「何か」として想定されたのがダークマターである。現時点ではダークマターは 銀河系の中心から球対象で広がって分布しているように考えられている。これを仮定すれば、 ニュートン力学でも説明が付くようになる。 銀河を構成する現時点で観測できる通常の物質とそれ以外の「何か」(ダークマター)を加えた 密度ρを考えてみる。銀河中心からの距離の関数として密度を ρ(r) としてみよう。 銀河中心から銀河の辺縁系までの空間の密度を積分して通常の物質とその「何か」(ダークマター) を合わせた全質量 M を計算すると M=∫ r0 ρ(r)・(4πr2)dr ・・・(5) 式(4)、(5)から ∫ r0 ρ(r)・(4πr2)dr = αr すると直に 4πρ(r)・r2=a (aは定数) ρ(r)=a/(4πr2)・・・(6) 通常の物質にダークマターを仮定した密度ρは銀河中心からの距離の二乗に反比例して減少する ように見える。 ダークマターを仮定せずに銀河回転問題を説明しようという理論としてはプラズマ宇宙論や 、修正ニュートン力学(MOND)といったものがあるが、この銀河回転問題は現時点で残っている 宇宙の謎である。 (ホームへ)