ブラックホール近傍の時間(2012/06/03) 【1.ブラックホールはどう見える】 ブラックホールの存在はニュートン力学でも18世紀には予想されていて、さらに一般相対性理論で 現代的な理論で裏付けされたが、直接観測はできていない。 しかし近年、ブラックホールが周囲の物質を飲み込むときに発生するX線などの電磁波観測やさらに ブラックホール近傍を通過した恒星が潮汐力で引延ばされ破壊される様子などが間接的に観測されている。 ブラックホールに吸い込まれた物質は光といえども脱出できないことから、ブラックホールは真っ黒 であると説明されている例を見かけるが、ブラックホール表面付近(ブラックホールの内側ではない ことに注意)で確率的に発生する粒子生成による発光、すなわちホーキング輻射が起こるので厳密には 「真っ黒」ではない。 また、ブラックホールの重力場によって周囲の空間が曲げられるので、背景にある遠く離れた星や銀河 の光が曲げられる重力レンズ効果が発生する。 もし、周囲に何もない孤立したブラックホールがあって、それをある程度距離を置いて眺めることが できれば、重力レンズ効果によって背景の星々や銀河からの光がブラックホールの周囲に集まったよう に見えたり、見えないはずの背後の星が見えたりするだろう。 ブラックホールの重力レンズ効果の想像図 http://www.nhk.or.jp/school/junior/yougo24.htmlより引用 【2.ブラックホールの誕生】 恒星の寿命が尽き、核融合反応を終了すると恒星はそれ自体の重力によって収縮する。 この時太陽の8~10倍以上の質量を持つ星は超新星爆発を起こし、中性子性やブラックホールを残す とされている。ちなみに太陽の場合は赤色巨星となって地球を飲み込むくらいの200倍程度に膨張し、 核反応の終了に伴い地球程度のサイズの白色矮星に収縮して、次第に冷えていくものと予想されている。 尚、ブラックホールは太陽の30倍以上の質量の星の重力崩壊で誕生すると予測されている。 ブラックホールの吸い込まれた光さえも抜け出せない領域の大きさはどのくらいになるのだろうか? ブラックホールの大きさはその質量だけで決まり、その半径はシュヴァルツシルト半径として知られて おり、下記の式で計算できる。 R=2GM/c2 ・・・(1) (ここで R:シュヴァルツシルト半径、G:万有引力定数、M:ブラックホールの質量、c:光速度) 仮に地球をギュッと圧縮してブラックホールを作ったとき、そのサイズはどの位の大きさになるのか 式(1)で計算してみよう。 G=6.67×10-11 m3/kg/s2 M=5.97×1024 kg (地球の質量) c=3.0×108 m/s R=2GM/c2=8.85×10-3m=8.85mm なんと、地球の重さの星をブラックホールにするには半径9mm程度まで圧縮しないといけない。 【3.ブラックホール付近の時間の遅れ】 一般相対性理論によれば、ブラックホールによる時空の曲りにより、場所によって時間の経ち方が 異なる。ブラックホールの中心から距離 a での経過時間を Taとして、距離 b での経過時間をTbとすると Ta={(1-R/a)/(1-R/b)}1/2・Tb ・・・(2) 今、ブラックホールから無限遠方での点 b での経過時間を Tbとし、ブラックホールの 近傍でブラックホールの中心からシュヴァルツシルト半径の2倍のところの点 a での経過時間をTaとして 時間の流れを式(2)で計算してみよう。 点 b は無限遠方なので、距離 b=∞ 点 a はシュヴァルツシルト半径(=R)の2倍であるから、a=2R ここで点 b で1秒経過したとき、すなわち Tb=1 のとき ∴Ta={(1-R/a)/(1-R/b)}1/2・Tb ={(1-R/(2R))/(1-R/∞)}1/2・1 =(1/2)1/2=0.707107 つまり、ブラックホールから遠く離れた場所で1秒経過しても、シュヴァルツシルト半径の2倍の 地点では0.7秒しか経っていないことになる。つまりブラックホールに近づくと時間の進み方が 遅くなる。 ちなみにシュヴァルツシルト半径での経過時間を計算してみよう。この場合、a=Rとなるので Ta=0 【4.ブラックホールに落ちると永遠の未来に行ける?】 ここまで見てきたように一般相対性理論によれば、もし、ブラックホールから一定の距離にいる 観測者が、ブラックホールに落ちていく宇宙船の時計を観測できるなら、落下する宇宙船の時間の 流れは遅くなっていくことが観測される。 そして、ブラックホール表面(=シュヴァルツシルト半径)に宇宙船が到達したら、観測者から見て 宇宙船の時間が停止してしまうだろう。 宇宙船がブラックホールに近づくとブラックホールからの潮汐力が作用してくる。 不思議に思うかもしれないが、小さなブラックホールほどブラックホールの表面近くの潮汐力は 強く、大質量の大きなシュバルツシルト半径を持つブラックホールでは潮汐力は小さくなる。 太陽と同じ質量のブラックホールの場合、その大きさは半径約3kmほどである。 ブラックホールの表面とその表面から垂直に1m上にあるところの重力場の強さの差、すなわち 潮汐力は 1×1010m/s2であり、10億G(※1G=地球表面の重力加速度)に達する。 宇宙船もその中の時計も引きちぎられて原型をとどめないだろう。 一方、太陽の百万倍の質量のブラックホールならば、半径は約300万kmになるが、表面付近の高度差 1mに対する潮汐力は 1×10-2m/s2であり、1/1000 G程度である。 宇宙船への潮汐力は問題にならないほど小さく、宇宙船が他の物質と衝突などしなければ破壊される こともなく、ブラックホールに吸収されるかもしれない。 一方、宇宙船側の時の流れはどうだろう。もし宇宙船の中に人がいるなら、時の流れは普段と同じ ように経ち、あっという間にブラックホールに吸い込まれていくだろう。このとき、宇宙船の人が 冷静にブラックホールから一定の距離にいる観測者の時計を観測したなら、観測者の時計がどんどん 早く進んでいくのが観測されるだろう。 宇宙船がブラックホールの表面に到達する直前、まだ宇宙船の中で人が生きているなら、(SF作家の 光瀬龍の作品風に言えば)百億の昼と千億の夜が過ぎ、永遠の未来の時点の宇宙の姿を目にするだろう。 (ホームへ) このページの無断引用を禁じます。