ABC予想(2020/04/14)

最近、ABC予想の証明論文が専門誌に掲載されるとかで話題になった。ABC予想が正しいと
証明されれば、このABC予想の結果を用いて、数学上の未解決問題として証明に350年以上も
要したあの有名なフェルマーの定理の証明も簡素にできてしまう。ここではABC予想の簡単な
説明とABC予想が正しいならば、それを前提としたフェルマーの最終定理の証明が如何に簡潔
になるかを示そう。

【1.ABC予想の証明にまつわる話】
ABC予想とは1985年にジョセフ・オステルレ(Joseph Oesterle)とディビッド・マーサー(David 
Massar)によって提起された数学上の未解決の問題の一つであり、数論の予想である。

このABC予想の証明に関して、2012年8月に京都大学の望月新一教授が600ページにも及ぶ論文を
出したが、数学者にとっても極めて難解であり、第三者による7年半もの期間をかけて査読が
終了、京都大学数理解析研究所が編集する専門紙PRIMSに掲載されると2020年4月3日に明らかに
された。

ABC予想の証明は、ノーベル賞数個に匹敵するほどの偉業という東京工業大学の加藤文元教授
(数論幾何)のコメントなども新聞で紹介されていた。
ノーベル賞は、物理、化学、医学生理学など科学系の分野が対象で数学は含まず、数学の分野
ではフィールズ賞がそれに該当する。この賞は40歳までの制限があり、望月教授は受賞できないが
上記のコメントはABC予想の証明という数学上の偉業が達成できた場合のときの意義の大きさを
わかりやすく表現をしたのだろう。

もし、このABC予想が証明されたということになれば、今後の数学上の未解決の難問を解くための
強力な定理になると想定されている。
例えば、17世紀のフランスの数学者ピエール・ド・フェルマー(Pierre de Fermat 1607~1665)に
よるフェルマーの最終定理は以下のようなものだが
フェルマーの最終定理
a,b,c,nを自然数とするとき、n が 3以上において
 an+bn = cn を満たす自然数の組(a,b,c)は存在しない
an+bn = cnn=2のときはピタゴラスの定理として成立し、これを満たす自然数の組(a,b,c)は無数にある。 例えば、(3,4,5)、(7,12,13)などである。ところが、nが3以上でan+bn = cnを満たす自然数の組(a,b,c)は一つも ないのである。 このフェルマー最終定理は数学上最も有名な未解決問題の一つであり、その証明に350年以上を要した。 数多くの数学者がこの定理の証明で挫折してきたが、1995年アンドリュー・ワイルズ(Andrew John Wiles) により証明された。その証明論文は百数十ページに及ぶということで如何に証明が困難であったかが分かる。 【2.ABC予想とは】 ABC予想とはどのようなものか以下に説明していこう。、素因数分解の知識があれば、その概要は理解 できる。
ABC予想
 a+b = c を満たす互いに素な自然数の組(a,b,c)に対し、
積abcの互いに異なる素因数の積をdと表す。
このとき、任意のε>0に対して、c < K(ε)・d1+εが成立する
ここで、K(ε)はεに依存する正の係数
(補足)後でのべるがε=1、K(ε)=1なら、c < K(ε)・d1+ε ⇒ c < d2になる

上の内容について、分かりづらい部分を説明しておこう。 「a+b = c を満たす互いに素な自然数の組の(a,b,c)」とは、a,b,cの公約数が1しかないという意味である。 たとえば、(a,b,c)=(2,4,6)は a+b = c を満たすが、(2,4,6)=(2, 22, 2×3)であり、aとbとcは共通の公約数2を 持つので互いに素にはならない。 次の例として(a,b,c)=(4,5,9)を考えると a+b = c を満たし、(4,5,9)=(22, 5, 32)であり、1より大きな共通の公約数を持たない、つまり、aとbとcの 共通の公約数は1しかないので、互いに素である。積abcの互いに異なる素因数の積をdと表す。」とは、 a,b,cの積abcを素因数分解し、abc=pl×qm×rn・・・ (p,q,rは互いに異なる素数,l,m,nは自然数)になるとき、 互いに異なる素数p,q,r,・・・の積をdと表す。すなわち、d=pqr・・・(=p×q×r・・・)という意味である。 このdを与える計算規則の記号をrad(ラジカル)と呼び、d=rad(a,b,c)=pqr・・・となる。 例として、a+b = c を満たす互いに素な自然数の組についてd=rad(a,b,c)を求め、cとの大小を見てみよう。 (a,b,c)=(2,25,27)のときd=rad(2,25,27)=rad(21, 52, 33)=2・5・3=30であり、c(=27)<d(=30)である。 cは自然数abの和であり、dは、abcの積abcの異なる素因数の積であるから、一般的にはc<dである。 (a,b,c)=(32,49,81)のときd=rad(32,49,81)=rad(25, 72, 33)=2・7・3=42であり、c(=81)>d(=42)である。 このようにc>dとなるケースはまれであり、cが大きくなるほど、c > d となるケースは少なくなる。 さらにc>d2の場合はそれを満たすケースはもっと少なくなる、もしくは存在しないかもしれない。 これがABC予想の重要な部分であり、そして、現在のところ、c>d2を超えるケースは発見されていない。 c>d2がありえない、すなわちc<d2が常に成り立つならば ABC予想でc < K(ε)・d1+ε(ε>0)ε=1、K(ε)=1が成立していることになる。 (2020/11/10追記) 望月教授の証明論文は、「弱いABCの定理」に関するもので、ε=1ではなく、0<ε<1の場合であり、 c < K(ε)・d1+ε(ε>0)を満たすケースは高々数えられるくらいしかない(=有限)であることの証明と言われている。 【3.フェルマーの最終定理の証明にABC予想が使えたら】 xn+yn = zn(x,y,z,n 自然数)の式は、 n=3、n=4、n=5の場合はそれを満たすx,y,zは存在しないことが 既にフェルマー、オイラーなどによって証明されている。 よって、n≧6xn+yn = znを満たすx,y,zが存在しないことを示せばよい。 ABC予想が成立するならば、フェルマーの最終定理の証明は以下のように簡素になる。   (ステップ1) まず、自然数x、yが互いに素でない場合は、x、yは最大公約数g(≠1)を持ち、x=gx'y=gy'となり、互いに素な 自然数x'、y'が存在する。 従って、xn+yn =gnx'n+gny'n=gn(x'n+y'n)であり、xn+yn = zn(x,y,z,n 自然数)であるなら、 z=gz'となるz'が存在する。 x=gx'y=gy'z=gz'xn+yn = znに代入すると、x'n+y'n = z'n(x',y',z'は互いに素の自然数)を得る。 この結果からフェルマーの最終定理は次のようにも考えることができる。
x,yが互いに素な自然数であるときn≧3の自然数nについて
xn+yn = zn(x,y,z 自然数)を満たす自然数x,y,zの組は存在しない。
(ステップ2) xn+yn = zn(x,y 自然数で互いに素)を満たす自然数x,y,zの組が存在すると仮定する。 xyは互いに素なのでxnynも互いに素である。さらにそれらの和であるznとも互いに素となる。 a=xnb=ync=znとすれば、a+b = c を満たし、a、b、cは互いに素である。 また、d=rad(a,b,c)=rad(xn,yn,zn)=xyzである。 ここで、ABC予想の式 c < K(ε)・d1+εに対して、ε=1、K(ε)=1が成立する場合は K(ε)・d1+ε=d2になるから c < K(ε)・d1+ε=d2=(xyz)2 ゆえに (xyz)2>cとなる。一方、c=znだから、(xyz)2>zn ・・・(1) また、xn+yn = znより、z>xz>yは自明であるから、 z2>xyとなり、 さらにz3>xyz ・・・(2)となる。 (1)と(2)より  z6>(xyz)2>zn、つまりz6>znであり、n<6 すなわち、xn+yn = zn(x,y 自然数で互いに素)を満たす自然数x,y,zの組が存在すると仮定する場合、 n6より小さいことになる。 一方で、先述の通り、n=3、4、5の場合については xn+yn = zn(x,y 自然数で互いに素)を満たす自然数x,y,zの組は 既に存在しないことがフェルマー、オイラー、ディリクレ達によって証明されているから、 n≧3のとき、xn+yn = zn(x,y 自然数で互いに素)を満たす自然数x,y,zの組は存在しない。(Q.E.D:証明終わり) 350年以上未解決のフェルマーの定理について、アンドリュー・ワイルズが百数十ページの論文で証明 したが、ABC予想が正しいならば、かくも簡潔に証明できることになり、ABC予想が数学における強力な ツールになると言われる所以も納得することができるだろう。
クイズ
pを素数、x,yを自然数とするとき、
p2=x3+y3  を満たす自然数の組(p,x,y)は何組あるか

答えはここ
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